人と自然と建築と

nonobe's diaryーArchitect Message

Vol.77「endless thema - 72」(12年05月)

 

--------桜/春風

 

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八重の椿

 

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ホウチャクソウ

 

鉢植えの八重の椿がいっこうに咲く気配がないと先月号に書いた矢先、
突然咲き始めた。
全くこの気まぐれさは誰に似て非なるものなのか。
それもまずひとつ咲き、そして春寒とともにそのひとつ目の花が終わり、
次に残った蕾が廻りを確かめているかのようにゆっくりゆっくりと咲いた。
温度には意外と敏感のようだ。
日本の椿は花びらが幽遠で一歩も二歩も控えた感じがする。
八重の椿は幽遠さをもちつつ絢爛さが漂うとでもいった印象だろうか。
少し透通った感じの花びらが幾重幾重にも重なりあう。

 

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タイツリソウ

 

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シラユキゲシ

 

風鐸のようなホウチャクソウの花が徐々に白くなってきた。
タイツリソウも沢山の花をつけた。
地植えのシラユキゲシも勢力を増強しつつある。
やっと穏やかな気候になってきた。

 


舞う花びら(動画です。画面をクリックすると再生します。)

 

春風に乗ってどこからか飛んできたのだろうか
サンルームのトップライトに桜の花びらが一枚。
桜は散るより舞うが似合う。舞う桜色の花びらは希望の花吹雪。
そして、より穏やかな季節の訪れ。日向の匂いが鼻先を撫でていく。

 

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桜色の花びらの絨毯

 

四月十五日の朝日新聞の日曜版グローブに巨大建築の特集が載っていた。
平屋で広大なものから背い高のっぽの超高層まで、でっかい建築のことを指す。
特にのっぽを争う超超高層建築は建築界でも話題となる。
現在世界で最も高い建物は、
ブルジェ・ハリーファアラブ首長国連邦/ドバイ 2010)で、
地上828メートルにも達する。
設計はSOM(Skidmore, Owings & Merrill)。
SOMは東京ミッドタウンの設計を国際設計コンペで勝ち得た
アメリカの設計事務所と言えば分かりやすいかもしれない。

800メートルといえば陸上競技の一周約400メートルのトラックを2周分。
でもそう考えるとまだまだ可能性があると思われるが、
それでも想像を絶する大きさであることは確かである。

建築家が皆、モニュメンタリックな超高層建築を賞賛するようなことはないが、
崇高なところへのあこがれや思い入れは古今を問わず誰しも持ち合わせていよう。
今話題となっている東京スカイツリーは、
世界一の高さの電波塔ということで注目を浴びている。
完成に近づくにつれ注目度はうなぎ上りとなり、
その勢いはマスコミで報道されているとおりである。

三年程前、国家予算の仕分けで
次世代スーパーコンピューターを巡り与党女性議員の
「二番では何故いけないのですか。」という言葉が物議を醸し出したのも記憶に新しい。
世界で一番の高さを争っているということ自体は
さして否定するようなことではないが、
当然のことながら他の選択筋はある。
いつまで続くか興味深いことではあるが、
建築家のみならず時代は徐々にグランドラインに定着しつつあるかのようにも感じる。

後々、巨大建築は超超超巨大建築となり、
何百年先には地上とは無縁で暮らす日々がやってくることになるのかもしれない。
草木は地上とは異質な生態系を形成し、
インドア内のアウトドア的空間で生育して行くようなことになるのかも知れない。
残念ながら、桜色の花びらが舞い花びらの絨毯となるような春風が
そこにやってくるとは思えない気がする。

 

*****

 

Vol.76「endless thema - 71」(12年04月)

 

--------卯月/未だ春遠からじ

 

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クリスマスローズ

 

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クリスマスローズ

 

卯月。卯の花の咲く季節。卯の花とはウツキの事である。
小さな白い花がびっしりと咲く。うちにあるのはのヒメウツキ。
新葉が沢山出始めたところだ。
八重の椿の蕾も少しづつ大きく色づいてきているが、未だ開花の気配はない。
鉢植えのクリスマスローズは順調に咲いている。
真っ白、赤紫がかった線の入った白、白緑、
紫の花色の四種の寄せ植えは紫色から咲く。

 

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中庭北側のビュー

 

京都府庁の旧本館でマルシェがあると聞き行ってみた。
そのとき、三月二十日から四月一日にかけて
京都府庁旧本館 春の一般公開」に伴い旧本館を舞台に
新鋭作家とECHOするというECHO TOURというアートイベントが
行われるのを知り探検してきた。
京都府庁の南正門を入ると正面に位置しているのが旧本館である。
明治三十七年(1904年)に建てられ、
2004年に国の重要文化財に指定されて現在も執務や会議室として使用されている。
旧本館内の正庁は公式の行事や式典のほか、一般にも催し会場として使用できる。
建物の構造は煉瓦による組積造で、屋根はうろこ形のスレートで葺かれている。

 

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議事堂前の回廊

 

建物は中庭を囲んだプランとなっており、
エントランスホールを抜けると吹き抜けのある主階段がある。
主階段を上がって行くとあるのが、南正門から正面二階に見える正庁である。
そして中庭をはさんで、奥が議事堂となっている。
周囲回廊となった四方の各隅には知事室、貴賓応接室、府議会議長室、
参事会室とレイアウトされ、明確な空間構成となっている。
七代目小川治兵衛による中庭の中央には枝垂れ桜が植えられている。
その西側には佐野藤右衛門命名容保桜(かたもりざくら)という
珍しい品種の桜も植えられ、開花が待ち遠しい。

 

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旧本館のペーパークラフト

 

旧知事室の前室には、ペーパークラフトで制作された
京都の文化財の建築模型の展示があり、
スケールは小さいが細部までよく出来ていた。
ペーパークラフトの建築模型もなかなかいいなあと思いながら覗き込んできた。

 

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屋根廻り

 

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東西階段の親柱

 

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議事堂廻りの階段の親柱

 

屋根のドーマー窓の上部の装飾や避雷針のデザインなど
明治期の洋館の折衷的な様式には内外ともにいろいろな形を見つける事が出来る。
屋内にある階段は、主階段の他に東階段と西階段の二カ所の階段、
それと北側の議事堂の左右に各1カ所づつ設置されている。
手摺を受ける親柱のデザインは議事堂の階段と
区別する為か違うデザインにしてある。

 

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主階段

 

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大理石の彫り物

 

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丸窓と天井廻り

 

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天井の漆喰の文様

 

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壁紙

 

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衝立のテキスタイル

 

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扉上部の木製の彫刻

 

主階段の吹き抜けは北の中庭からのあかりで明るく開放的な感じを受ける。
吹き抜けに吊るされた照明器具は本来のものとは違うと聞くがよく似合っている。
その天井には漆喰で文様が施されている。
階段脇にある扉の上部に大理石の彫り物を見つけた。
正庁はこの主階段二階の踊り場廊下に接して設けられている。
正庁の窓上部にある丸窓や窓台、天井、腰板などは歴史を感じるつややかな質感。
天井中央には照明器具が吊るされていたのか、漆喰で型取られた文様が残っている。
壁のクロスはノーアスベストらしいがリノリウムだそうだ。
その他にも主要室に設けられた暖炉、その暖炉前の衝立のクロスの文様、
扉上部の木製の装飾、天井のデザインなど視線の行くところには何かがある。
こういった形を見つけて楽しいのが建築探検。

 

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しだれ桜

 

京都府庁旧本館の中庭の桜が、
一面の花びらの絨毯にしてくれるのはもう少し先となるだろう。
近所の小路のしだれ桜も、まだ蕾は堅く閉ざしたままのようだ。
しだれ桜は遅咲きというが、未だ春遠からじってところだろうか。
歩きながら舞う花びらを想い描く。
暖かくなり小路の路面に舞ったうっすら白い桜色の花びらからは
何を想わせてくれるだろうか。

 

*****

 

Vol.75「endless thema - 70」(12年03月)

 

--------結露/待ち遠しいかぎろいの朝

 

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紅菜苔

 

紅菜苔(こうさいたい)。
アブラナ科の野菜だ。紫色の茎は冬のイメージ、
二月いっぱいぐらいまでが旬らしい。
芽のところを摘んで硝子器に。黄色い菜の花色の花が咲く。

寒冷前線が南北に走り、日本列島の各地に大雪をもたらした。
うちの辺りでも十センチ程積もった。
純白の雪景色は、気分を爽快にしてくれる。
屋根に積もった未融けの雪は二日三日残っていただろうか。
ある朝サンルームのトップライトに驚くほどの結露が生じていた。
零下三度~四度と冷え込めば、気密性の悪い古家でもさすがに結露をおこす。
つづけて二回ほど水滴が床に落ちるほどに結露した。
これほどの結露は初めてのことのように思う。

 

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庭の雪

 

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大粒の結露

 

トップライトには硝子の代わりに
板厚9mmのアクリル版を直接木部に嵌め込んである。
トップライトの屋内側表面温度と外気温の関係が露点温度を決定する。
トップライトの勾配は一寸五分ほどで、水下にスリットを設けてあるのだが、
このスリットから外気が入り飽和寸前の表面の空気を冷やしてしまい
結露する可能性もある。
アクリルは硝子+シートに比べても熱貫流率は小さく、
それでも天井面は壁面ほど気流が生じにくく、
ぬくまった湿った空気がとどまりやすい。
スリット近くの壁面の開口部には硝子を用いているが、
こちらはそれほどの結露はない。
スリットが多少たりとも廻りの空気を動かしているようにも思う。
貫流率は材厚によって違うので、それぞれの熱伝導率で比較すると
一般のフロート硝子1に対してアクリルは0.2程である。
ちなみに、アルミの熱伝導率は200ぐらい、自然木材は0.15程度である。

 

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トップライト

 

空気の単位当たりに飽和される水分量は温度により決まっている。
定量以上の水分を飽和した空気が冷やされると水滴状となる。
この状態を結露と呼び、そのときの温度を露点温度と言う。


ほどほどに天気が良ければ、窓を全開にし換気扇を回しておけば
多少の結露は意外と早く自然に消えていく。
結露面にサーキュレーターなどのファンを使って
直接空気を動かすのもよい方法である。
結露を無くすのは難しい問題で、生活状態や使用状況によってまちまちである。
ちょっとした工夫や無駄なエネルギーロスを抑えるようなスポット暖房などの多用や、
生活習慣を今までと少し変えてみたりすることで結構いい結果をもたらすことがある。
閉めっぱなしのままの状態が長く続くのは好ましいことではない。


今までトップライト以外は、ほとんどと言っていいほど結露したためしはない。
古家のためか外気の影響が大で、冬は屋内の温湿度自体さほど上がっていない。
一階にある東の庭に面した床からの全面の窓も不思議と結露したことがない。
この部分の床は縁側の様な造りにしてあり、
窓から二尺五寸程控えた所に布基礎を設けてある。
壁面全体が木製建具の窓で気密性に欠け、
敷居等の隙間からの外気の流入などが考えられる。
その為か暖房時にペリメーターゾーンと言われる窓周辺の屋内側の温湿度が
思ったほど上がっていないのではないかと思う。
一般的には足元あたりからの外気によって表面温度が冷やされ
飽和状態の空気に接し結露と言う事になるのだが、
飽和状態になるより先に外部からの乾燥したすきま風で緩和されることで、
露点温度を下回るほどにはならないのではないだろうかと考える。
結露といういささかややこしい問題は、
こんな屁理屈的考察でもしないかぎり結論付けることは難しい気がする。


今年は、蕾のままで年を越した八重の椿が二芽も出ている。
気まぐれなこの八重の椿は咲いたり咲かなかったりとマイペースだ。
家内曰く、たいがいの生き物は飼い主に似るそうな。
このまま気分を損ねる事なく上手く育てば三月末には咲くだろう。
窓際のクリスマスローズもゆっくりと日増しに大きくなってきた。
霜天の寒さから移ろい、かぎろいの揺らめく日が待ち遠しい。

 

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クリスマスローズ

 

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八重の椿

 

*****

 

Vol.74「endless thema - 69」(12年02月)

 

--------菜の花/元気を。

 

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菜の花

 

正月に家内と姪っ子を連れ立って初詣。
ついこないだまで、まだ小さかった姪っ子も大学生である。
叔父さんも年を取る訳だ。
初詣は例のごとく、浅間神社から那古野神社までのコースをぶらぶらと歩く。
浅間神社の東側に堀川を渡す中橋がある。
北筋の円頓寺通りに架かる五条橋と南筋の桜通に架かる
桜橋の間に架かっているのが中橋である。
これまで気に留める事なく渡っていたが、その西詰めの袂にも御社がある。
屋根神さまだ。ふと気になり近づいて見る。
さり気なくお正月の飾り餅がお供えしてある。
屋根の傷みや昇高欄と千木の破損が著しいが、かなりの歴史がありそう。
古びてはいるが形や取り付けられている金物が綺麗なのに誘われ、
つい立ち止まってしまった次第である。
御社は小さくとも神明造りの社殿である。
高床式、切妻平入でケラバ側には独立した棟持柱が付き、
屋根は板葺きでちゃんと千木もある。
拝み近くの軒には四本の小狭小舞も見られれっきとした神明造りの様式である。

 

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中橋のお社

 

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中橋のお社

 

神明造りは伊勢神宮の系譜を継ぐ形式で、
前述とおり柱が建物本体から離れて建ち、
屋根を支えるため棟木を受けるように設けられた
文字通りの棟持柱(むなもちばしら)や、
破風板が屋根を突き抜けて交叉し上までのびた千木(ちぎ)という装飾や、
破風板が合わさった拝み(おがみ)と言う部分のあたりの軒に
四本の小差小舞(おさこまい)と呼ぶ材が設けられていることなどが主な特徴である。

 

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名古屋東照宮

 

中橋を渡りしばらく東に歩いていくと那古野神社がある。
那古野神社の西隣には隣接して県指定の文化財である名古屋東照宮社殿があり、
参拝後はいつもこちらの側から失礼して帰る。
写真は名古屋東照宮社殿の向拝柱頭廻り。
いまは色あせているが、本来は極彩色の文様を持つ社殿だ。
途中、屋根の上の屋根神さまを姪っ子に見せようと、四間道界隈へ。
昨年のマンスリーホットライン(2011年02月号)でもご紹介した
子守地蔵尊前の屋根神さま。
今年も世話役の皆様の行き届いた気配りでお正月を迎えられていた。

 

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子守り地蔵尊前の屋根神さま

 

京都では旧暦の小正月の一月十五日に門松の片づけをするのが習わしのようだ。
我が家も門松を片づけ、届いた賀状の整理を始めた。
知人の安田さんからご自身の言葉に添えて
「Won't you stop and remember me at any convenient time?」
と書かれた賀状をいただいた。
そう、サイモンとガーファンクルの「A Hazy Shade Of Winter」のワンフレーズだ。
日本語のタイトルは「冬の散歩道」。
アップテンポのリズムにのって「Time, Time, Time」と力強く
そしてアート・ガーファンクルとの美しいハーモーニーから始まる。
ポール・サイモンが自身に向けて書いたと言われている曲だ。
今、日本では?
ひとはそれぞれに想いは違うが、
Won't you stop and remember me at any convenient time?
ふと聴きたくなり、CDプレーヤーのスイッチを入れた。
ポール・サイモンの歌は詩的だ。歌詞を目で追う。
ポール・サイモンの詩の豊かな言葉に触れる気がする。
何度も聴くうち、立ち止まった気がした。

 

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S&G

 

もうじき、野原一面の黄色い菜の花畑が見られる季節がやってくる。
ふと立ち止まって、振り返ってみてください。
あなたには、何が見えましたか?

 

*****

 

Vol.73「endless thema - 68」(12年01月)

 

--------2012年/賀状に竜舍

 

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皆既月食

 

2011年の12月10日の深夜から11日にかけて皆既月食があり、
シャッターは押したもののなかなか上手く撮れなかった。
なんだかんだとしている間に徐々に月の明るい部分が大きくなり始めた。
寒いのに輪を掛けて、風呂上がりなのに体の芯まで冷えてしまった。
「おお~さぶ。」
肉眼では綺麗に見えているのだが‥‥。
残念ながら腕の悪さは未だに健在?って言うことで終わった。
七転八倒の末の、なんて事の無い写真となってしまった。
廻りの点々はトップライトに付いた結露を拭いたのだが、
焦って拭ききれずに残った水滴。
次回月食皆既月食となるのは、2014年10月8日の19:24らしい。

毎年の賀状はシリーズでその年の干支にちなんだ古建築の語彙を紹介している。
昨年はうさぎで「兎毛通/うのけとおし」(バックナンバー2011年01月号)。
今年はたつで「竜舍/りゅうしゃ」。
日本の寺院にある塔婆の屋根のてっぺんに立てられている部分全体を相輪と呼ぶ。
その相輪の一番上方にある二つの珠の上のほうを宝珠と呼び、
その下の珠を龍舎/竜舍と呼ぶ。

相輪には、下から路盤、伏鉢、請花、宝輪(九輪)、水煙、竜車、宝珠とあり、
その形状形体は塔全体のプロポーションを決定するにふさわしい部分でもある。
平安中期(天暦五年/951年)の建立で国宝に指定されている醍醐寺の五重の塔。
その相輪は優美で、九輪の上方に設けられている水煙はなかなか美しい。
屋根の隅木に飾られた宝鐸、そして相輪の九輪や水煙にも宝鐸が飾られ雅やかである。

 

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醍醐寺五重塔の相輪 / 東寺の五重塔の相輪 / 仁和寺五重塔の相輪

 

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醍醐寺水煙と竜舎 / 東寺の竜舎 / 仁和寺の竜舎

 

国宝教王護国寺(東寺)の五重の塔と重要文化財仁和寺の五重の塔の相輪は、
すっきりとしたプロポーションを持つ。
球体をした醍醐寺の五重の塔の竜舎に比べ、少し縦長で俵型をした竜舎である。
塔婆全体に比した相輪自体の大きさの違いや
宝鐸が飾られていないということもシンプルさを感じる要因だろう。
どちらも江戸期(寛永二十一年/1644年)建立の和様の建築様式で
古い時代の造りが随所に見られる。また東寺の五重の塔は国内最大の高さを誇る。

塔婆とは卒都婆/スツーパからきている。
日本に仏教が伝ってくる以前のインドでは、スツーパは伏鉢形をしており、
お釈迦さまの遺骨を納めた舎利を奉蔵した舎利塔が始まりと言われている。
ご存知の事と思うが、仏教はインドから中国そして朝鮮半島を経て日本に伝わってきた。
その途中スツーパは中国に渡った時それが塔の上にのったと考えられている。
日本への仏塔の伝承はあまり解っていないらしい。
古くは塔の心柱や心礎に空けられた穴に舎利を納められていたが、
後に塔の初層に須弥壇を設け
安置されるようになりそれが現在の形式に至るようになった。
また、塔婆は形態的に、平面的にも重層的にも多種多様である。

 

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醍醐寺五重塔

 

当然のことながら建造物は構造的な見地や屋根の軒やそのそり具合、
組物などの話が中心となってしまう。
装飾品や歴史を学び時代背景から解けることや、
他分野など違うものの見方から線が繋がることも多い。

短い話で沢山の事をお伝えするのは難しい。
しかし、それが何かの取っ掛かりとなり、興味を抱いて頂けたらと考えています。
最後に、塔婆の文献は多種に渡り出版されていますが、
下記にいくつかの資料文献等を追記しておくことにします。

 

□参考文献等

近藤豊「古建築の細部意匠」大河出版 1967年
日本の美術10「塔、塔婆・スツーバ」no.77 石田茂作編 至文堂 1972年
「日本建築史基礎資料集成 十一 塔婆 1」中央公論美術出版 1984
朝日百科 日本の国宝 別冊「国宝と歴史の旅 8/塔、形・意味・技術」朝日新聞社 2000年

 

*****

 

Vol.72「endless thema - 67」(11年12月)

 

--------たいへんです/指定講習

 

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侘助

 

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サガン

 

十一月も終わりの頃から椿の白侘助が咲き始めた。
澄んだ小ぶりの白い花びらは余計な力みも無く自然で清楚な表情だ。
生け垣のサガンカもちらほら咲いている。
寒さも深まりつつある。そろそろ冬支度かな。

 

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ル・マンシュ

 

近頃、いろいろなところで様々な「市」が催されている。
京都左京区の吉田にある関西日仏学館のガーデンでは、
不定期ではあるが毎月一回のペースで「ル・マンシュ」と言う名の催しがある。
毎回の生演奏と、ちょいとおいしいものやこだわりのものなどのブースが出ている。
写真は季節も良く日差しも穏やかなときに行ったときのもの。
関西日仏学館の中庭の雰囲気はなかなかいい。
普段は学館内にあるル・カフェのカフェテラスになっている庭だ。
日本とは少し違う雰囲気の中庭で、
生演奏の流れる中ちょっとのんびり気分に浸ってきた。
十二月はクリスマスマーケットで十七日(土)と十八日(日)の予定らしい。
また覗きに行ってみるかな。

 

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ル・マンシュ

 

今年は設計事務所の管理建築士の指定講習の最終年度で、
私も数ヶ月前に講習を受けてきたところだ。
平成二十年十一月二十八日建築士法改正に伴い建築士事務所の管理建築士
「管理建築士講習」が義務づけられた。
一日中カンズメ状態の講習と考査だが、
この修了証がないと次回の建築士事務所の更新が出来なくなるのだ。
机を前に拘束される?のはどうも性格的に合わないが、
このくらいの内容であれば、今のところ集中力もまあまあの感じで修了できた。

管理建築士講習もさることながら、建築士指定講習と言うのもある。
私は春先に受講したが、これも同じく平成二十年十一月二十八日改正の
建築士法改正によるものだ。
講習免除の人たちもあるのだが、三年に一度の講習義務がすべての建築士に課せられる。
一級建築士の場合の修了考査の設問が40問だったと記憶している。
考査というのは、小テストの事である。
疲れきったカチカチの頭でよく回答できたものだと感じた考査であった。
引っ掛け問題も多々有り、このたぐいの設問が必要かどうかは
多少なりとも疑問に思うところでもある。
次次回あたりには年とともに衰える体力と集中力が
どの程度まで対応できるかが心配でもある。

設計の仕事自体、ディスクトップパソコンはさておき
ノートパソコンをあっちでぱちぱちこっちでぱちぱち。
紙とエンンピツ、色エンピツ。
それにマーカー、スケール片手に、コーヒー飲みながら、あっちこっちでスケッチ。
日溜まりのところへ行ったり薄暗いところへ行ったり、
本棚前に椅子を置きその座面に紙を置いて何やら思案。
狭い入隅の空きスペースへいったり、
こんなところでものが考えられるのかといったよなところで何やらイメージを湧かせる。
こんなワークである。
私だけなのか誰しもそうなのかは定かではないが、
通常とは差の有る講習と修了考査。
楽しいと思って望むものでも無い限り、
いささかなりとも改正の余地があるのではないかと感じた両日々であった。

マンスリーホットラインに登場してから今月号でまる六年を経過した。
2002年からの日本大学校友会設計グループの小冊子「れんじ」に
掲載していたころからは十年となる。
自分で言うのも何だが、良く続いたものだと感心する。
それと共に年を重ねたのも間違いない。
関係者様には随分とご迷惑をおかけしている事と思う。
これだけ続けている割には
何かしら進歩が見えるのかといったことが一番の気がかりでもある。
年を重ねた分、丸くなり、
保守的になって来ている事は間違いのない事の様に思う。
方向性はどうだ。果たして思い通りにarchitect messageとなっているのか。
もう一度原点に帰路し自問する時期なのかもしれない。

 

*****

 

Vol.71「endless thema - 66」(11年11月)

 

--------十一月/かわきた屋のベーコン

 

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ギンミズヒキ

 

葉っぱに穴の空いたミズヒキ。白一色なのでギンミズヒキ。
花芽の出る前に葉っぱが虫に食べられてしまったが、
小さく楚楚で瀟洒な花を幾つも付け元気よく咲いていた。
虫食いはともあれ、新芽にアブラムシがつき虫の幼虫もやってくる。
生け垣のアカメモチやサザンカにはアブラムシがよくつく。
毛虫にしろどんな幼虫にせよ、その成虫がどんな姿に成るのか気になるところだ。

 

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クサカゲロウ

 

陽が沈み門灯の明かりに誘われてか、カゲロウがやってきた。
クサカゲロウの仲間だと思うが、
玄関の格子戸のまぐさに止まり触覚を動かしている。
全体が淡い青味がかった黄緑色で、透きとおった翅は神秘的だ。
クサカゲロウは、うどんげ優曇華)の花と呼ばれる
待ち針のような形で卵を産みつける。
その幼虫はアブラムシを食べにやってくる。忘れずに、
その時期が来た頃には観察をしてみるか。
このごろ、思い出した時には‥‥‥。と、いったような事がよくある。
多くは宿題となるが楽しい宿題でもある。

 

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かわきた屋ファサード

 

大宮通りの商店街筋にデリカテッセン「かわきた屋」と言うお肉屋さんがある。
一昨年暮れの新作の林檎のソーセージ。
シナモンがきいてなかなか上品な味で美味かった。
林檎もわかる程度に入って食感もいい。
店主の川北さんの話によると、信州の人から林檎が届いたこともあり
レシピはあるのだが川北流のオリジナルだとか。
リンゴが手に入らないとショーケースには並ばないというのが残念である。
川北さんは、外国旅行をして味を覚え my taste で作ってしまう人である。
定番である自家製のソーセージは皆美味い。

 

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店主の川北さん

 

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デリカテッセン

 

バジリコにオックスフォードにレーゲンスブルガーにモンペリアール。
メルゲースやブティファラやソンジン・ア・ライユやトゥールーズなどなど。
ボイルしてもローストしても美味い。
うちではローストもするが、ポトフ風の煮込みによく使う。
マスタードをつけて、ドイツビールもいいが
濃いめの甘味のあるポルトガルビールなどが似合う。
先ほど、煮豚用に豚の肩ロースも注文した。
奥でグラム分切り分けてくれているのが川北さん。
ショーケースの上段の左端を飾っているのはラザーニャ。
ついつい食べたくなるが、今日はがまんがまん。

 

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丹青展

 

美味いと言えば、川北さんは油絵もなかなか上手い。
九月下旬から十月の上旬あたりにかけて
京都府立文化芸術会館で毎年催されている
「京水会 丹青展」というグループ展に出展されている。
出展し始めたのは近年だということだが、
丹青展は今回で39回目を迎えるらしい。
今年も出展すると聞いていたのでちょっと顔を覗きに行ってきた。
いつもと違うばりっとスーツ姿の別顔で来客の応対をしている。
今回は風景画三点。力強いタッチでさらりと表現してある。

 

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川北おばあちゃん

 

そうそう、忘れてはいけないのがなんと言っても自家製ベーコンと
川北おばあちゃんの作ったコロッケ。
ラードで揚げたコロッケは納得の味。
中高校生の頃、学校近くの市場のなかのお肉屋さんで、
熱々のコロッケを頬張った楽しい記憶にも結びつく。
自家製ベーコンもグラムで買えるのがうれしい。
煮込み料理にはもってこい。スモークがしっかりした端の部分をお願いする。
煮込む前の、野菜を炒める前にかりっと炒めたところをつまみ食い。
これが美味い。カロリーには十分な注意?をしているが多少は良しとしておこう。
ここのベーコンに味を占めたせいか、他では買えなくなってしまった。
お肉屋さんであるし、当然肉は美味いということを付け加えておこう。

「かわきた屋」は新大宮通りの北山通りから二筋目を上がって西側にある。
赤い郵便ポストが目印。

 

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