人と自然と建築と

nonobe's diaryーArchitect Message

Vol.6「endless thema -3」(06年6月)

-------早いもので、もう第3号です。

第2号も無事に発刊し、さてこんどはと思いきや。
はて、どんなことを書こうか一向に思いつかない。endless themaと言いながら、
もうendではどうしようもないのである。などと考えつつ・・・・・。

文章を書くときの言い廻しは非常に難しい。
それに、語尾をどう書くかによっても受ける感じが違う。
・・・・違うのだ。・・・・違います。・・・・違うのではないでしょうか。
などなど。 ただやさしい言い方だけでなく、
やさしさが感じられる言い方がいいと思いながら、いろいろな方の文章を
目にしているのだが、なかなか自分にあった言い方が見つからないでいる。
それでついつい、ご覧の口調になってしまう。
と、悩んでいても仕方がない。しばらくの間はこんな調子で行くしかないか。
そろそろ本遍に入らねば・・・・・・。

その前に、ちょっと面白いものをみつけたので、そのことを少し。

先日、ビールの泡がきめ細かくクリーミーになるという
ビール注ぎ器なるものを購入した。
ビールの泡というのは、炭酸が逃げるのを防ぐのと、
ビールが直接空気に触れ酸化するのを防ぐという働きをもっている。
このビール注ぎ器なるものは、
缶ビールの上蓋の部分に取り付けるだけで簡単に使用できるのだ。
素焼状のものを注ぎ口に取り付けるだけの構造なのだが、
いがいに楽しめHappyになれる。ドラフトギネス(※注-1)
とはほど遠いが、なかなかよくできているのである。
ビールのおいしい季節もまだまだつづくなか、
ギンギンに冷えた缶ビールに取り付け、
喉を潤し、御満悦のこの頃である。


(※注-1)ビール好きの方はご存じのことと思いますが、ドラフトギネスとは、アイリッシュバーなどでギネスビールに圧縮空気をいれクリーミーな泡立で楽しむビールで黒ビールが主ですが、缶でも市販しており、黒のマイルドな エキストラとちょっと辛口の青缶のビターがあります。

マエフリがマエフリで無くなり長々となってしまいましたが。

 

-------Y.Sさんの登り窯

私の知人で、陶芸家のY.Sさんがいる。
(前号からYさんがよく出てきましたので、こうしました。)
Y.Sさんは亀岡の三国山という自然に囲まれたところで、
昨年登り窯を再生した。

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登り窯

 


以前に再生前の窯を見せてもらったことがあるのだが、
そのときY.Sさんは、楽しげに「いつになるかわからないけど、
使えるようにしたい。」と、言っていたことを思い出す。
今年は、ぜひこの窯に火が入っているところを見て見たいと
心待ちしていたところである。

Y.Sさんはとても器用な人で、それはろくろを回しているところを
見ていればわかる。
器には、作家としての作品と日用使いの器があり、
ちょうどその日は、生活の糧としてのろくろを廻していた。
そしてあっという間に一客出来上がるのである。
「ここをこうしてこうするとひとつ出来上がり。」と、
楽しげであり自慢気でもある。
陶芸家の作品作りはきっととぎすまされた空気が流れ、
人を寄せつけぬ姿ではと思うのが一般的であろう。
でも、きっとY.Sさんは作品も楽しげに作っているに
違いないと思えてくる。
私も「楽しくて、気分よく、建築を創りたい。」
と思っている。

理論的で、むつかしい顔(きっと、そのほうが建築家らしく
見えるのだろうが。)をして創ったのでは何か心さみしい気がする。
決して自己満足の作品ではなく、いろいろな人から、
「何かいいねえ。」とか、「感じいいねえ。」とか、
そんな普段着の言葉で言われると、とてもうれしい。
やっぱり、むつかしい言葉はいらないのだろう。
「いいねえ。」これが、最高かな。

八月の暑いさなか、別の用件もあってY.Sさんに連絡してみたところ、
「週末から火いれをするので、燻し初めは相手できますよ。」
とのことで、さっそく見に出かけることにした。

Y.Sさんの工房に着いて、「こっちだよ。」と言われて驚いたのだが、
以前の場所からもう少し小高いところに移築
(移築という言葉が適切かどうかわからないが。)
してあった。 元の写真ではうっすらと、
煙りがでているのが分かるのだが・・・。

燻し始めの煙りが屋根を超えて昇って来ている。
なかなか美しい光景である。
「前の場所は狭いのでこっちに移しました。」
と軽く言うのだが、そこは山なりにすこしづつ傾斜し
丸太で土止めしながら壇状につづき薪置き場や、
休憩の為の場所や、寝泊まりの小屋などが配置してあり
心地よい風が吹き抜けてくる。
これを自分で作ったというのがすごいことだと思う。

 

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薪置き場

 

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登り窯

 


以前は、樹木の繁った傾斜地であったところを、ここまでに、
そしてたぶん図面などはないだろうし全体を把握、
というか空間として理解できているから作れるのだと思う。
かたちに対する感性みたいなものが自然と現われてくるのだろうか、
この辺のところがすごいところだ。などと関心しながら
視線には登り窯が見えてくる。
いま燻し始めているところのようで、
随所から煙がにじみでていて窯のなかにある作品のひとつひとつの間を
すり抜けてきたかと思うとなかなか感動的なシーンである。

この窯のれんがは以前の窯を解体し、ひとつひとつ洗いそして新たに
積み上げたということで、たいへん根気のいる作業だったに違いない。
「露天風呂もつくったので、みて。」と、Y.Sさん。
ここには露天風呂までついているのだ。
女性のスタッフも数人いるので、囲いがついているが、
一人のときはとっぱらうらしい。
「入っていったら。」と言われたけど、さすがにちょっと遠慮しておいた。
こんど機会があれば、ビールを片手に入ってみたい気がする。
さぞかし、気分がよいことだろう。

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露天風呂

 


露天風呂です。浮いた感じのデッキには、
槙で出来た湯舟が埋め込まれている。
Y.Sさんは設計も施工もできる 陶芸家なのです。
薪を投げ込む焚き口はこんな感じになっている。
勢い余った薪が作品に、当たることも珍しくない。

 

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登り窯

 

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薪を投げ込む焚き口


この日は他にお願いする用件があったので、
ミーティング用のテーブルに移動、
と言っても10m程のところであるが移動した。
この場所もなかなか旨くできておりくつろげる空気が漂っている。
今設計中の住まいの座敷の長押の釘隠の金物ならぬ
焼物をラフのスケッチをもとにお願いしているところである。
数ヵ月後には焼上がるだろう釘隠しの焼物、
出来上がりが楽しみである。
返り際、「自然のクーラーも見てくれる。」と、
山あいを流れるせせらぎから工房まで引いたダクトからは、
冷たい風が丁度ろくろを回す位置にとどくようになっている。
人をいやしてくれるだけでなく、
適度の湿気と冷気が土に程良い状況を作り出しているのだと思う。
一週間ほどで、窯出しということで、
またずうずうしく伺うことを約束して
Y.Sさんの工房を後にした。

窯出しの当日は朝からむし暑い日であったが、登り窯の周辺は
心地よい風が吹き抜けている。今朝から、窯出しを行っているということで、
あわただしく作業が進められている。幾室目の窯のどの位置の何段目に
どんな薬で仕上げたかなどを記録する作業が行われていた。
火の廻りぐあいや、色の出ぐあいなど緻密な記録作業を繰り返し、
窯の特性を知ることにより、
思いどおりの作品を焼くことが出来るようになるのだろう。
しかしながら、電気やガスの窯で焼くのに比べ、
そこには数々の偶然性もある。
そして、その延長線上には偶然性をも予測することが可能になるであろうことが
見え隠れしている。
今回は、燻し初めと窯だししか見ていないのだが、
その途中も見て見たい気がする。
ひょっとして、Y.Sさんの違う一面も見ることが出来るかもしれない。

 

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中央の人がY.Sさんである

 

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登り窯

 

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窯の中

 


窯だしと同時にデーター収集の作業が、すすめられている。
両側の搬出入口からは焼き上がったばかりの美しい作品が覗いている。
左下に見える開口は火の通り穴である。

“もの”を知るということは、奥の深さを知ることである。
いろいろな事物を経験し、そして学ぶことは建築という巨大な器を創るとき、
きっと何かの手助けとなり答えを導き出してくれることと思う。



 

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