人と自然と建築と

nonobe's diaryーArchitect Message

Vol.26「endless thema - 21」(08年02月)

 

-------お気に入り/建築家の椅子 その1

 

美しいフォルムをもつ椅子、
建築家ミース・ファンデル・ローエ(1886-1969)のMRチェアー。
私のお気に入りのひとつである。
1927年のド・ラ・モード展に出展された肘なしで
パイプに革が張っただけのシンプルなデザインの
MRチェアーはモダニズムそのもので、ミースらしい完璧なデザインであった。
私の使っているものは藤で編まれた肘付きのタイプで、
事務所の近くのショップで見つけたレプリカである。
展示用に製作されたらしいのだが、オリジナルとは微妙に違う。
クロムメッキのスティールパイプに巻かれた藤は、
太さや巻き加減、エンドの始末などやはりオリジナルとは違う。
違うというよりは劣る。
それに左右のパイプの開き止めを兼ねた座面下部の弧を持つバーの位置、
かたちの違うボルトの取り合いなど・・・。

 

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席を立つとき何故か立ち上がるとすぐに横にでようとするのは、私だけだろうか。
日本人の習慣?か、立ち上がり席を離れるときに、
慣れないとカーブしたパイプに膝やすねがあたり転けそうになる。
慣れればどうっていうことはない。
が、ミースのような巨体ならいざ知らず
腰から膝までの長さの違う小柄な私にとって慣れるまで、あっ痛。
何回やってしまったことか。

 

確かに、膝までが長いとパイプに当たることはない。
それに、肘付きのタイプはパイプが座面の先端から
必要以上に出ているために、特に当たりやすいのだろう。
しかしながら、座ったときに感じる微かに揺れ続ける
パイプの微妙なしなり具合は、スチールという素材の特質をいかした
工学的なデザインから生まれたもので、
座った者にしか分らないほどの心地よさがある。
この形状を持った椅子をキャンチレバーチェアーと呼ぶ。

ミースといえば、バルセロナ・パビリオン(1929開館)や
ベルリンのニュー・ナショナル・ギャラリー(1968)を思い浮かべる。
そして、チェコスロバキアのブルノに建つテュウゲントハット邸(1930)は、
世界遺産にも登録されている。
このテュウゲントハット邸のためにデザインされた
ブルノチェアーやテュウゲントハットチェアーもまた
キャンチレバーが採用された椅子である。
昨年暮れごろテレビで流れていた某メーカーのジーンズのCFには、
これ以上単純で豊かな流れる空間はないと言われる
イリノイのファンスワース邸(1951)が美しい映像でクロスオーバーしていた。

世界的な建築家たちは小さな住宅を造るのも巧い。
ミースは勿論のことコルビジェ、それにアアルトやカーンそしてヤコブセン。皆巧い。

 

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「less is more」を唱えたミースの建築はモダニズムの一解答である。
チェアーのもつ豊かさや緊張感、
計算し尽くされたディテールなどを理解することは、
ミースの建築論を通して見ないとなかなか難しいことなのかもしれない。
ただ言える事は、流石にミースと思わせる程
どこから見ても美しくデザインされていると言う事だろう。

 

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