人と自然と建築と

nonobe's diaryーArchitect Message

Vol.34「endless thema - 29」(08年10月)

 

-------好文庵

 

萌黄色の実のまま数ヶ月、季節が替わり
やっとこの頃赤みがかって来た我が家のモチノキの実。
毎年、知らず知らずに花が咲き、知らず知らずに実になり、
知らず知らずに実が落ちる。
今年は例年にない程沢山実のり、真っ赤に色ずいていくのが楽しみである。

 

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京都、堀川紫明に谷口吉郎(1904~1979)が設計した淡交ビル(1968)がある。
機会を得、ビル内にある茶席「好文庵」をのぞかせてもらえた。
今月はその美しいディテールをご紹介しようと思う。
2007.9月号でご紹介した河文「みずかがみの間」も合わせてご覧頂ければ幸いである。

当日淡交社のかたに案内されながら、
「今は使う機会も少なくなりほとんど使ってないんです。
 手狭で使わないのもどうかと、展示用に使ってます。
 戸棚を設けていますが、撤去は可能で本来の姿には戻せるようにしてあるんですよ。」
と、説明を受けた。
居ずまいを正す気持で踏み込みを入ったのだが、
なるほど右に新しく戸棚が設置され茶器の展示がされている。
視線の先には飾り棚が彫り込まれ目隠しスクリーンを左に見ながらそのまま進む。
左手に立礼席がみえる。
方向を変えると正面に障子そして腰掛けが見えてくるはず・・・が、
その腰掛けを隠すようにここにも展示用の戸棚が設置されている。
立礼席の前には開放的に造られた畳席があり、
そこにも資料のたぐいやら茶道具の展示がされたりと、
谷口の茶室空間として見ることが出来ないのがちょっと残念。
戸棚の内に腰掛けがそのまま残してあるのが見える。
河文にも使われていたが、この腰掛けは谷口がよく使うデザインである。

 

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化粧棚内部の取り合いも美しい。

 

さっそく実測しても良いかお訪ねしてみた。
「どうぞかまいませんので好きなだけ測って行って下さい。」
と返事が返って来たので一応全部と言っていいぐらい測って来た。

踏み込みから正面に見える飾り棚は枠なしで塗込まれ、
壁と棚板や天井板の取り合いにはあて木や見切りがなく納められている。
腰掛けの取り付け方法は、鉄骨で跳ね出された上に木の角材で仕上げられている。
かがんでみると跳ね出された鉄部の小口側が少し見えるのが気になる。

目隠しスクリーンの丸柱の足元にはやはり幅木として藤巻きが施されている。
この目隠しスクリーンのあるロビーの
天井高より高くしてある立礼席の天井高は2,590mmである。
天井仕上げは谷口好みの目透かしの板張りが用いられ、
立礼席と畳席の区切りの下がり壁の無目は成21mmで仕上げられている。
立礼席の障子は少し縦長でかなり大きく割り付けられ、
プロポーションを優先してか直交する右手壁面に棚を設け
その奥行きで障子の寸法をコントロールしたものと思われる。
そしてこの障子の竪子とヨコ子は共に見付け6mmである。
その障子と外の窓との間には照明器具も取り付けられ
外が暗くともぼんやりと障子を照らすように配慮されている。

天井の半埋め込みされたオリジナルな照明器具のカバーは
アクリルに薄くそがれた木が張られ、明かりで木の模様が浮き上がってみえる。

 

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谷口吉郎の作品集はそのほとんどがモノクロ写真で、
壁の色は赤みがかった聚落のイメージをしていたのだが意外と自然な感じで、
時間とともに色褪せたのか落ち着いた色合いであった。
畳席の床はシンプルで一枚板の床板が敷かれている。
間口二間一杯に下がり壁が設けられ、
手前座の炉の奥に立つ絞り丸太に沿うように一重の釣棚が設けられている。
天井は竹の竿縁天井で杉中杢が目透かしで張られ、
竿と平行な廻り縁のみ竿と同寸同材の竹が用いられ、
直交する側の廻縁は見切りと言って良い程の細物が使われている。
茶道口は通い口で、素銅(すあか)と思われる引手が付けられた襖紙の色は
黒かそれに近い紺のようだ。コントラストが美しい。

 

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風炉先屏風やらで全体が見れなくて残念です。
絞り丸太の床柱の左あたりが手前座になってます。

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できることなら谷口の茶室空間としての保存を期待したいところだ。
せっかくの機会、事はついでで一般に入室できない上階や
その他の屋内空間も合わせて見せてもらえばよかった。
このビルの一階はショップとなっており茶器や茶道具は勿論のこと、
淡交社の出版物や雑貨が購入できる。
堀川通り沿いに面したファサードは決して威嚇することなく
端正ですきのない面影をうかべ、静かに淡々と歳月を重ねて行くようにみえる。

 

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