人と自然と建築と

nonobe's diaryーArchitect Message

Vol.40「endless thema - 35」(09年04月)

 

-------建築を通して/コラボレーション

 

生垣の足元にスノードロップが咲いている。
外の空気は日増しに穏やかで長閑(のどか)になり
草木も新しい芽がぽつりぽつり。
低気圧と高気圧が交互にやって来るのは春の訪れだとか。

建築を通して見えるものにはいろいろある。
「人と自然と建築と」でも各々ご紹介してきました。
いろいろな方とのコラボレーションから生まれるものも
そのひとつで、自分の創り出す空間をどう演出して行くのか
ということも重要なことではある。
一方、空間の主役が何であるか、
そしてそれを見せる空間をどう創るのかということも重要なこと。

 

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以前に手がけた住宅のリノベーションで、
玄関ホールに「てあらい」を設けたことがある。
もう十二年程前になる。
ガラスで仕切られた駐車場の名車を見渡せる玄関ホール。
木製のカウンターの上に半分程埋め込んだ陶器製の手洗い器は、
内側から外側へと「掻き落とし」という手法で「桜」が描かれている。
「掻き落とし」と言う手法は、一度素地に絵を彫り込んだり
絵の廻りを掻き落としたりした後、その上に彩色で描き込んでいく。

 

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京都山科に工房のある宮本さんにお願いした洗面器だ。
残念だが、今ではもう桜の器は造らないそうだ。
宮本さんの造る器は形がいい。
どこがと云われると丁寧さだろうか。きちんと仕上がっている。
それは底や高台からも伝わって来る。
藍一色の葡萄が掻き落としで描かれている蕎麦猪口。
底の部分、丁寧である。トンボ柄のぐい飲み。
中にもトンボが描かれ、酒を注ぐとゆらゆらとトンボが揺れる。
このごろはあまり作らない作風らしいが、普段使いの器十五年程使っている。

 

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宮本さんはINAXから、宮本博/京・絵付けシリーズの
「掻き落とし牡丹」という仕事もしている。
そして4月2日(木)まで木屋町通りの高瀬川沿いにある
ギャラリー「遊空間 Roji」/京都市中京区木屋町御池上ル/で、
宮本博 陶展」が催された。
現在はモダンで斬新な作風がお気に入りだとか。
今回の個展もその延長線上か、
いろいろな手法と表現に取り組む姿が見られる。

 

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建築空間は焼物の洗面器ということもあり、
カウンターは厚みをあまり感じないようなディテールでシンプルさを心がけ、
支柱もフラットバーで構成し、
無双の中釘を打った八角の化粧柱で床に見立ててある。
ホールには、フロストガラスの窓からの穏やかな光のあふれる階段。
その手摺には自立ガラスを用いたり、
強化ガラスのオーディオルームの扉もあり、
構造体の鉄骨や空間はオフホワイト系を主とした
ホワイティなモダンなデザインにしてあるが、
無双釘を打った八角柱やクローゼットの扉に和桜を使用したりと
和のイメージを少しだけもたせてある。

このお宅にも時折おじゃまするが、
過去に創り出した空間の姿や形やその素材やディテールには
今の自分を支えるおまじないがある。
普遍的な意識の継承は建築にとって重要な課題でもある。

いつも思う、楽しい仕事と楽しい仲間。
そして、それを支えてくれている人たちに感謝しつつ、
学び、背中を押してもらえる喜びを大切にしたい。

 

 

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