人と自然と建築と

nonobe's diaryーArchitect Message

Vol.78「endless thema - 73」(12年06月)

 

--------ひととき/微風 soyokaze

 

五月始めの朝、通りから托鉢のお坊さんの
「お~い。お~い。」という声が響くのが聞こえ、
急いでお布施を包んで外に出た。
「おはようございます。」と声をかけられ。
「おはようございます。」と返事した。
なかなか間に合わないこともある。
あ~と思っているうちに素通りされてしまう。
数週間後、小雨の朝にもお~さんの声が。
急いで玄関の木戸を開ける。いいタイミングで間に合った。
・・・ほっ。

 

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ハクチョウゲ

 

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キンリョウヘン

 

微かに漂う季節感。白丁花(ハクチョウゲ)が花をつけている。
半木陰のせいもあるが、まだ小ぶりでもう少しボリュームがでてくると、
沢山の花をつけてくれることだろう。
鉢植えのキンリョウヘンも咲いている。
キンリョウヘンは中国原産のランで金稜辺と書く。
興味深いことに、花には蜜がないのに
ニホンミツバチだけを誘うという不思議な生態をもつ。
窓の向こうにアゲハチョウが見える。

 


ナミアゲハ(動画です。画面をクリックすると再生します。)

 

羽を休めているのだろうか。街中でもよく見かけるナミアゲハだろう。
ナミアゲハの幼虫はみかんなどの柑橘類や、
サンショ、カラタチなどみかん科の葉を食べる。
五月の風に揺られて気持良さそう。

 

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霧島ツツジ

 

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長岡八幡宮社務所

 

京都長岡京で旬のタケノコをごちそうになった。
近くの長岡八幡宮の参道には、
赤紅色の霧島ツツジが満開で、その色の華やかさに戸惑う。
階段を上がってすぐ左手には社務所が建っている。
平屋建で重なり合う入母屋の屋根に唐破風の向拝。
大屋根の入母屋はてりむくりがつけられ、
屋根の勾配も緩やかで穏やかな形である。
唐破風の向拝には形のいい蟇股(かえるまた)が設けられ、
宝相華唐草紋と思われる彫り物が綺麗である。
棟には経の巻の出の少ない形の優しい獅子口が乗せられている。

 

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蟇股(かえるまた)

 

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獅子口

 

獅子口は屋根の棟瓦の両端や端部の雨仕舞として
設けられた装飾瓦のひとつである。
仕舞の瓦の種類には獅子口の他、鴟尾(しび)、
鯱(しゃちほこ)、鬼瓦、などがある。
経の巻というのは、獅子口の上部につけられた
三ないし五個の円筒形をしたところを指す。

 

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白鳥

 

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ごちそうになった料亭の庭にも、霧島ツツジが咲き誇っている。
聞くと明治14年(1881年)の創業当時からだと伺った。
樹齢130年あまり、それはみごとである。
池には白鳥が水面に身を任せるように静かに過ごしていた。
橋の上に造られた藤棚には満開の藤の花。薄紫色が新緑に似合う。
食事は離れでいただいたが、主屋の大玄関の唐破風屋根、
手入れの行き届いた取次の間のしつらえ、
襖には版木を使った唐紙が張られている。
その襖の引手や塗壁の赤みがかった壁色など時代を想わせる。

 

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大玄関

 

うっすらとした夕刻は気持も穏やかになる。
のどの乾きにはほろ苦いビールが旨い。
ここのタケノコは自家製で朝掘りの新鮮さを提供してくれる。
出汁の利いたこりこりとした食感で食べる煮物はえぐみもなく流石に旨い。
やわらかいところはさしみや椀もので、
中程部分は天ぷらや甘辛の味付けの焼き物でいただいた。
日本人であることがうれしい。
日も沈みかけのざわめきの残るゆっくりした時刻。
まだすこし酔いも醒めやらぬなか、少しひんやりとした風がここちいい。

 

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金環日食

 

五月の二十一日朝七時半ころに、
日本では二十五年前に沖縄で観測されて以来の金環日食があった。
私はその晩のTVのニュースででも見るつもりだったのだが、
二階でピンホールで投影した影像を見ていた家内に呼びつけられ、
三日月状態とはなったものの記念撮影をしておくことにした。
次回日本で観察できるのは、2030年の北海道になるらしい。
朝の数分間の出来事であったが、
日本中が宇宙の定率の創り出す普遍的現象に、
釘付けのひとときとなったのではないだろうか。

 

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