人と自然と建築と

nonobe's diaryーArchitect Message

Vol.107「endless thema - 102」(14年11月)

 

--------十一月立冬/風景

 

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ヒヨドリがモチノキの実をついばみにきている

 

澄んだ空を着飾る雲が秋らしく思える。
野草を覆う冷たい朝露を見るようになってまだ間もない。
夜半の冷え込みを思うと不思議な日々がつづいていたように思う。
窓から見えるモチノキの実が思いのほかたくさん熟してきた。
赤い実をついばみにやってきたヒヨドリが甲高い声で鳴いている。
完熟の実は丸呑みするようだが、熟しきれていない実はくちばしで摘んで食べずに口から放し、その実は地面に転がっていく。
モチノキの樹形は越してきたときから相変わらずだが、和の風情で我が家にはよく似合っている。
しかし、その巧みな樹形は気になる。
伸びた新芽を適当に切りそろえてみたが、思いなしか作られた感じが強い。
微かな風を見られるような風景になるといいのだが。

 

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国宝の富貴大堂/大正六年の写真

 

TVのビールのCFで国宝の富貴寺大堂が映し出されていた。
富貴寺大堂は平安末期の国宝で穏やかで伸びのある軒が美しいお堂である。
少し専門的な語彙用語が多くなり恐縮ではあるが、柱間は正面三間側面四間、屋根は宝形造に露盤宝珠が載る小さなお堂である。
屋根の丸瓦の重なり合う行基葺は古い時代を想わせる。
側面と背面の壁面には、柱と柱の間に厚板が差し込まれている。
柱上部に設けられた舟肘木や長押との構成はシンプルだが頑強な造りをしている。
小さなお堂で少し骨太ではあるが、部材に設けられた大きめの面取りや木割の工夫がなされ、桁には反りもありしっかりした造りのなかにもさりげなさを感じる。
話ついでに、丸瓦の行基葺は元興寺極楽坊本堂・禅室を思い浮かべる。
極楽坊禅室はゆったりとした大きな切妻の屋根面をみせる。
その妻側には箕甲の変わりに、螻羽瓦(けらばかわら)に平瓦を裏返して二枚重ねる平式破風瓦型式※が使われている。
このケラバの葺き方が極楽坊禅室をすっきりと美しく見せているように思える。

現在の富貴寺大堂の行基葺や軒瓦は、発掘により出土した瓦から復元されている。
化粧軒裏の木負と隅木の納まり部分には論治垂木が設けられ、文献には垂木割から柱間などが決定されているように書かれている。
正面三間の柱間の中央と隅の柱間の支割の割りを変えるなど、支割の割付けの工夫やしっかりした木割が美しい軒を創っているのだろう。
論治垂木がないと木負の隅木から最初の地垂木までが詰まり気味となる。
とはいうものの醍醐寺五重塔中尊寺金色堂などは論治芯ではなく少しずれた位置に地垂木が割り付けられているが、事に縛られず伸びやかに創られている。

【参考文献】
日本建築史圖録 /星野書店 昭和八年 天沼俊一 著
日本建築史基礎資料集成 五 仏堂Ⅱ/平成十八年 中央公論美術出版
重要文化財 東福寺六波羅門並びに東司修理工事報告書/京都府教委員会‥‥※


古建築は垂木の大きさと形状や支割、茅負や木負、軒反り、軒の出、二軒の地垂木と飛檐垂木の比率、その高さ、瓦の納まり、屋根勾配、屋根の形状や勾配、建物間口や奥行き、柱間や柱径、組み物とその形状、・・・・・、これら建物を構成する全ての要因が複雑に影響し合うことによって「美しい」は成し遂げられる。
屋根から見え始める景観は、軒線が見え近づくにつれ部分を把握認識する。
景観をどう読むか、そしてそれはどんな風景なのか。
その為に美しい屋根や軒は重要なテーマとなる。

 

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ホトトギス

 

うすら明るい夕刻にアールグレーでも煎れようかと思い、近くのさざなみベーカリーまでアップルシナモンを買いに行った。
今月七日は立冬。暖かいものがうれしい。
裏庭ではホトトギスが咲いている。葉の食い散らかしの痕跡もない。
今年は家の修理のざわめきからかルリタテハもやってこなかったようだ。
その分ホトトギスはよく咲いた。毎年立冬の頃には木枯らし一号の声を聞く。
今年は昨年に比べ八日も早く吹いた。なんだか短い秋となった。
もうじき冬支度、枯れ葉が舞う風景となる。

 

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