人と自然と建築と

nonobe's diaryーArchitect Message

Vol.114「endless thema - 109」(15年06月)

 

--------六月/日々爽々

 

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山椒の実

 

新ものの山椒。出廻り始めがやわらかでいい。
手間はかかるが、細かい軸を取り省き実だけにする。
庭のサンショの木にも食べる程はないがほんの少しだけ実もできる。
越してきたときからあるトゲのある雌株である。
軟らかそうな新芽もちらほら出てきている。
つまんでひと叩きした葉はすっきりとした香りがいい。
サンショの木はミカン科の落葉低木。
アゲハチョウの幼虫が好んで葉を食べる。

 

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京都国立博物館知新館

 

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ホワイエ前の水面

 

ゴールデンウィークの爽やかな日に京都国立博物館に行った。
一月号に書いた谷口吉生設計の平成知新館を見学してきた。
大和大路通りの正門から噴水ごしに視線は本館へとつづく。
その軸線を遮るかのように交差したアプローチにはやはり多少違和感は感じるものの、知新館の池から芝生そして本館へとターンする風景は穏やかな空気が流れていた。
屋外に置かれた椅子とテーブル。
気持がよさそうだ。本館南西あたりから本館を視線に入れながらの風景は美しい。
知新館西側から水面を通してみる本館も美しく見える。
そして知新館のホワイエや二階ホールの窓越しの本館も美しく見せている。
展示棟と本館をつなぐ部分には線で描かれたように細く見えるルーバーが設けられ、存在感が和らいでいる。

 

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エントランス東側の風景

 

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知新館東から見た本館

 

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ルーバーの詳細

 

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展示室内の階段廻り

 

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ホワイエ/連続したFR鋼

 

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三階からホワイエを見る

 

低いエントランスを入っていくと開放的な吹き抜けになっている。
トップライトから降り注ぐあかりや窓の扱いそして視線の抜けはさすがと言わざるを得ない。
E.V.で三階まで行く。
E.V.内の天井照明はつなぎのないパネル全体の均一な照度と、映り込む電球の影もない。
E.V.廻りのサイン計画も程が良い。
展示室に入ると二階と三階をつなぐ吹き抜けにある階段廻りの空間が目に入る。
照度を抑えた圧迫感のない空間は展示を妨げることなく連続性がある。
ホワイエ廻りの空間には谷口吉生の建築でよく見られるFR鋼(耐火鋼/Fire Resisutant Steel)でまとめられていることもあり、均一性や連続性から生まれる建築空間は澄んだ空気のようだ。
内部に用いられている石張りの目地には少し複雑な加工がしてあり、写真を撮るつもりが他に興味をひかれ残念ながら撮り忘れてしまった。
写真に気を取られていると見るのを忘れ、見てばかりいると撮影を忘れる。
直らないいつものパターンである。
ディテールには、建築を知らなければそれほど思うこともないであろう熟慮されたデザインとそれを可能にするために費やす多大な時間の記憶が残る。
そして展示施設には欠かせない中休みのためのテラスが上手く設けられ、ゆったりした時を過ごせるようなこころづかいも感じる。
質の高さを意識させる谷口建築だが建物全体に配置されているサイン計画も谷口建築を観る楽しみのひとつである。
空間を共有する表示板やピクトグラムは丁寧に表示されている。
知新館内のレストランのテラス席は、大和大路通りとの高低差と隆起した芝生が視線を妨げることなくうまく景観が整理され居心地がいい。
そして、幾度観てもすばらしい収蔵品の数々は、建築を見に来たことがメインということを忘れる程の質の高さである。
東の庭には内露地のついた大徳寺真珠庵「庭玉軒」の写しと言われている小間「堪庵 tan-an」のある茶室もある。
閉館間際までうろついていたが見残しも随分とあり、また足を運ぶつもりでいる。

 

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レモンの花

 

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八重のオダマキ

 

五月も終わる日には、久しぶりとなる京都丸太町教会のチャペルコンサートに出かける。
バッハのゴールドベルク変奏曲 BWV988 をバイオリン、ビオラ、チェロのトリオで聴く。
眠りの音楽と表された「二段鍵盤つきのチェンバロのためのアリアと変奏曲」というチェンバロ曲だ。
私はよく朝聴いている。
ディテールを考えるときや思考の整理には至極の旋律に思える。
トリオで聴くゴールドベルク変奏曲は爽々なここちよさだろうと楽しみにしている。
庭の剪定も終え差し込む日差しが眩しさを増す。
数日前には、珍しい山野草も並んでいる近くのお店でレモンの木を見つけた。
匂やかな白い花は爽やかな香りがする。
五月十九日には奄美地方が少し遅めの梅雨入りをした。
鉢植えの八重のオダマキも咲き終えるころとなり、梅雨のあけるころには燦々とした日々を迎える。

 

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