人と自然と建築と

nonobe's diaryーArchitect Message

Vol.121「endless thema - 116」(16年01月)

 

--------初月/冬花彩彩

 

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詩仙堂サザンカ

 

京都一乗寺白川通を東に坂をいくと詩仙堂がある。
門を覆うような白花のサザンカの見事さに驚かされる。
澄んだようにみえる冬色の白は季節を装う。
門越しに石段が見え、その先にある無比な出来事を思い浮かべながらのアプローチは静かに心いそぐ風景である。
我が家の生け垣のサザンカは初冬のころから咲いている。
毎年うす桃色の花も咲くのだが今冬は白花ばかりが咲いている。
このあたりの伝統的な建物は昭和の初期ぐらいだろうか、低い石積みに生け垣という小さな前庭のある造りが多い。
茶花にも使われるサザンカだが、庭園や生け垣に使われる。
近所を歩けば時代を生き抜いてきたそんな趣きのある風景にしばしば出会うことができたのだが、気がつけば真新しい姿に変わっていることも多い。
時と共に面影は薄れ、そんなそこはかとない町並みになっていく気もする。

 

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ワビスケ

 

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八重の椿の蕾

 

我が家の前庭のシロワビスケは冬支度を始める頃から咲きつづけている。
空気が澄み息が白くなる朝を迎える頃に咲き始めるワビスケであるが、山茶始開とはうらはらにマイペースである。
顔を近づけないと分からないほどに微かに香る。
裏庭の遅咲きの八重のツバキの蕾ははち切れんばかりにふっくらしている。
二月頃には淡桃色の重なり合う花びらが開く。
温度湿度や周囲の環境に左右される草木花であるが、昨年暮れにかけてのスーパーエルニーニョをはるかに超える現象は気温が高く晴れが少なく雨が多く、春夏秋冬入り乱れた変化に惑わさているようだ。
季節外れもあり、早咲きもあれば遅咲きもある。
あっという間もあれば長く咲いていることもしばしば。
人それぞれと同じで草木花もそれぞれ。

 

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(1)河文/水かがみの間

 

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(2)京都とらや菓寮

 

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(3)化粧棰

 

毎年の賀状には、その年の干支名がつく建築語彙を紹介することが多い。
今年は「さる」で猿頬面(さるぼうめん)。
大きめの斜めにカットされた面のことを言う。
(1)は河文/水かがみの間(谷口吉郎設計 1972年/バックナンバー 2007年9月号参照)の縁部分に用いられた天井の棹縁。
細い材をより細く見せた猿頬面の棹縁と同じ方向に流れる杉柾目の天井板との繊細なデザインである。
(2)はバックナンバー 2014年1月号2014年10月号でご紹介した京都とらや菓寮(内藤廣設計 2009年)の化粧棰。
繁棰の少し扁平ぎみに見える形状だが力強い印象を受ける。
(3)は住宅(TEAM87 設計)の化粧棰。
大きめの棰を用いていることもあり猿頬面にしてある。
面を設ける場合に私の手がけた建物では1:1より縦長の比率で設ける場合が多いが、それは見上げの化粧材になることが多く、縦長の矩形に大きめの斜めの面からはやわらかで和らいだ印象を受ける。

 

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丸桁と舟肘木

 

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破風廻り/組物や花肘木も見える

 

写真は以前に御堂を手がけたときの柱上舟肘木の納まりの丸桁 gan-gyo と舟肘木 funa-hijiki の断面である。
入母屋妻入に切妻が重なるように連なる御堂である。
六支掛 rokushi-gake の少し広めの支割 shiwari を受ける舟肘木の下部は緩やかで長めの反りにしてあり、面はどちらもヨコタテ約1:1.166 の比率で、舟肘木中央成のほぼ15.5%になる。
少し余談になるがエレベーション的に、入母屋にはシンプルな柱上舟肘木でゆったりした舟肘木にし、切妻の組み物の載る肘木は穏やかななかにも動的な形状にしてあり、花肘木もついた組物のある特殊な形態である。
破風板の納まりは茅負 kayaoi が妻側に回り込み裏甲 uragou に添って登って行く造りで破風板の木口は力強く感じる。
その分、屋根の箕甲 minokou には平式破風瓦を使い伸びやかな造りにしてある。

 

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ザクロの実

 

自宅から今宮通までの途中にザクロが実るお宅がある。
ザクロは、梅雨から初夏にかけ実と同じ深紅の花が咲く。
暮れに妻と買物帰りの通りすがり、年配のご婦人がザクロの枝を綺麗にされていたので声をかけてみた。
時季も終わるころで小さかったり割れたりとしているが、観賞用に真っ赤に熟している実を頂いてきた。
「早めに声かけて。」と、きっと完熟のおいしい食べごろがあると言う意味だろう。
日も短くなったが、薄暮までの間のような、なごむひとときも頂いてきた。

 

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