人と自然と建築と

nonobe's diary

Vol.123「endless thema - 118」(16年03月)

-------三月/早春淡々淡

 


バイモユリ

立春から一ヶ月余が過ぎた。
時折早春らしい日差しも感じられるようになったが、
裏庭はまだ冬の名残がつづいている。
エビネは一月末の氷点下で鉢に残った雪が凍りつき葉の痛みが目立つ。
植木棚に置いた一粒だけ残ったヤブコウジ
冬色の葉々のまま暖かくなるのを待っている。
少し前に新町通りの花屋さんでみつけたバイモユリは部屋のあたたかさからか、
まだ少し早いのに蕾は育ち次々と咲いている。
バイモユリはユリ科の植物で、
和名を貝母 baimoまたは編笠百合 amigasayuri と呼ばれ、
寒さには平気だが高温多湿が苦手な夏休みタイプ。
細い葉の先がカールしてチャーミングだ。

先月三日の節分の日、朝日新聞の連載300回目となった
鷲田清一氏のコラム「折々のことば」に、
梅原猛氏の「福は内 鬼も内」が紹介されていた。
創るということは内から突き上げてくるものに身を開いておくことで、
一種の鬼を自分の中に持っていなければ
優れた仕事はできない…というようなことが書かれていた。
内にある鬼は自らのエネルギーを造り出す源なのかもしれない。
そして自らの内面を映し出した分身だろう。



先賢の佇まいは興味深い

時折ぺらぺらと捲っている
「京が残す/先賢の住まい」前久夫著/京都新聞社という書籍がある。
明治以降から昭和五十年前後の京の先賢の住まいが紹介されている。
創作活動の基盤となる佇まいが造り出さす風景は興味深い。
なかに大正十三年に建てられた本野精吾(1882ー1994)の自宅も紹介されている。
著名な先賢の立派な住まいが多い中、コンパクトで機能的な住まいである。
本野精吾はドイツに留学した際、ペーター・ベーレンスの影響を受けた建築家である。
中村式鉄筋コンクリートブロック造を用いた京都北区の等持院に位置する住まいは、
当時中村鎮の考案したばかりの新しい構造をいち早く取り入れている。
素地そのままのシンプルで端正な外観と外部空間は
時を重ねるごとに美しい風景をも創り出しているようだが、
建物周囲の空間はもう少しオープンで日が差し込み、
芝生に反射した光が眩しい、そんなイメージにも思える。
当時はまだモダニズムと評される時代ではなく、
模索のなかで様式化していく近代建築が息吹いている。
築90年余の歳月とともに佇んできた空間は錆びることはない。

建築家でもある中村鎮 ( nakamura mamoru/1890ー1933 ) が開発した
中村式鉄筋コンクリートブロック造はL字型やF字型の定型ブロックを用い、
型枠を兼ね、柱となる部分に鉄筋を配しコンクリートを打設する。
空洞部には設備関係の配管が可能で断熱効果を高めるための諸材を詰めたと聞く。
また、中村式コンクリートブロックは、
スラブにも箱形に組合わせたブロックを打ち込み軽量化をも提案している。

本野精吾の手がけた建物は、京都市考古資料館 ( 旧 西陣織物舘 1915 )、
自邸 ( 1924 )、栗原邸 ( 旧 鶴巻邸 1929 )、
京都工芸繊維大学3号館 ( 旧 京都高等工芸学校本館 1930 ) が現存し、
うち住宅二棟に中村式鉄筋コンクリートブロック造が用いられている。
本野精吾についてはINAXレポートのNO.171でも紹介されている。
本野精吾は建築とその教育の枠を超え、舞台や船舶のデザイン、インテリアや家具、
グラフィックや装飾に至まで幅広いデザインにも関わりつづけた。



今年も早、啓蟄そして春分を迎える。
冬眠していた虫が地面から顔を出し始める時季は暦の上だが、
うきうきと待遠しくなるような心持ちを表している。
白花のクリスマスローズの蕾が首をもたげている。
四色植えのクリスマスローズの鉢はもう紫の花が開き他の色の蕾も大きくなってきた。
その鉢の近くには種がこぼれ地面からもクリスマスローズの葉が出ている。
こぼれた花は何色になるのだろうか楽しみである。
少しづつ光や空気は変わり、春の匂いがしてくる。

 

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