人と自然と建築と

nonobe's diaryーArchitect Message

Vol.105「endless thema - 100」(14年09月)

 

--------九月/鎌軒瓦と熨斗止

 

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大府の巨峰

 

今年も半田に住む友人からうれしい便りが届いた。
大府の露地物巨峰は八月中旬から二十五日頃までが最盛期。
ぶどう園は大府市のエコファーム。
知多半島の温暖な気候からか少し早めの収穫のようだ。
季節を想いながら皮ごと頬張る。
甘みとほんのりとした酸味が喉を潤してくれる。

数年程前から、屋根瓦や焼杉板の傷みが際立ってきていた。
越してきて二十年程経ち、焼杉板の修理に加えて気になっていた畳や襖その他諸々の修理もこの夏に行なった。

屋根瓦は越してきた時にはすでに随分と傷んでいたものの、痛みの激しい瓦の差し替えと調整で済ましてきた。
まだしばらくはと思うものの、とりあえずは痛みの激しい下屋の葺き替えと門の屋根の修理と考えていた。
下見に何度も足を運んでもらった瓦屋さんに意見を聞きながら方策を練ったが、「上からするのが筋」と言う瓦屋さんの大将に背中を押され、いつでも造り替えることの出来る門は調整だけにして主家の瓦の葺き替えを優先することにした。

 

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土を降ろした後に敷き詰められた杉皮がみえる

 

既存の屋根は土葺きでトントンと呼ばれる割板の上に杉皮が敷き詰められその上に土葺の瓦がのっていた。
瓦は日本瓦の桟瓦で軒先には万十軒瓦に大棟は五段熨斗に紐丸瓦がのり、下屋の隅棟は三段熨斗に紐丸瓦といったどこにでもある普請である。
腰葺きのある東側の軒先にも万十軒瓦が使われていた。

 

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軒の鎌軒瓦と隅棟の熨斗止

 

せっかく葺き変えることでもあるし、自分なりに少しだけかっこ良くしてみた。
面戸などには黒漆喰を使い、大屋根の鬼瓦にはシンプルで癖のないカエズ型。
大棟五段熨斗にひもなしの素丸瓦をつかい、軒先は鎌軒瓦の文様のない瓦を選んだ。 下屋の軒先にも鎌軒瓦、そして門越しに少しだけ見える隅棟にも三段熨斗に素丸瓦を選び、鬼瓦を使う替わりに熨斗止という納まりを選んだ。
東側の腰葺きの軒先には、言うまでもなく一文字瓦で納めている。
瓦職人の腕の見せ所といった造りとなりうれしい悲鳴であったと思うが、甲斐ありなかなか美しく仕上がっている。

焼杉板張のある妻側はお隣さんと屋根が重なり合っていた時の形状そのままに、建築を業とする者には解るであろう歴史をそのまま残してある。
外玄関の雨避けにつけているトップライトと門のデザイン、そして窓廻りは近い将来の楽しみな宿題とすることにした。

 

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襖の竪縁に付けた極小引手

 

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中と小のオリジナルの引手のサンプル

 

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天袋の襖に荒磯の唐紙

 

玄関の二畳の間の押入の襖の引手には丸や角の引手の替わりに、扉や戸棚の木製建具に使うオリジナルの引手棒を極小タイプにしてつけてみた。
使い心地を知る為にも使ってみたが、襖に使うのも悪くない。
それにシンプルでなかなかいい。
材質はピーラーで手あか防止に蜜蝋WAXを塗ったが、日に焼けるのを見計らって塗り重ねると美しくなる。
二階和室の床の間の天袋の襖紙は手持ちの荒磯文様の唐紙を使い張り替えた。
黒漆の縁と引手は古い時代からのものを残してある。
庭に面した大きく重いガラス戸の建具が指一本で軽く動くようになったのも建具職人の技だろう。
玄関を始めとして建具はストレスなく軽く動くようになった。

 

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空間を繋ぐ吹き抜け

 

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イペは濡れてもすぐに乾いてくる

 

板と板の間にツインカーボという中空のアクリル板を置いただけの吹き抜けは、柔らかな光で1階と2階を繋ぐ。
ツインカーボからの視線の先の空間を感じる。
直接的に見えること自体ではなく意識させることで広さを認識する。
吹き抜けのある真新しいブラインドの架かる窓から見える庭には、ステンレス製のフレームに変えた植木棚がある。
棚板には板厚30mmのイペという木材を載せてある。
白色がかっていた棚板はすこしづつ茶褐色に赤みが差し、いい感じになりつつある。
少し時間を置いて、ある程度木材の焼けるのを待ち鉢を置くことにした。
イペは保護塗料の塗布などの必要もなく、耐腐朽効果のある成分が含まれているため水かかりの部分にはいい。

ともあれ、今回行なったその他の諸々の修理も含めて調整などの工事を残すものの無事終了し、うるさいクライアント(私)と暑い最中の工事ということもあり、引き受けていただいた熊倉工務店さんはもとより瓦屋さんを始め協力業者さんには、ねぎらいの気持と感謝である。

 

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ジュズサンゴの花房

 

庭では木陰に置いた鉢植えのジュズサンゴの花が咲いている。
少し遅咲きのようだが、小さな花の房が涼風にそよいでいる。
季節は白露そして秋分へとつづく。
秋分の九月二十三日には雷乃収声。
「かみなりすなわちこえをおさむ」と読む。
積乱雲の発生も少なくなり雷の声もしなくなるという季節になる。

 

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