人と自然と建築と

nonobe's diaryーArchitect Message

Vol.109「endless thema - 104」(15年01月)

 

--------初月/エッセンス

 

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生垣のサザンカ

 

生垣のサザンカは暮れから咲きつづけている。
道端に散らかったサザンカの花びらは、かたずけた矢先からまたすぐに散らかる。
近所のかたが掃除ついでに、うちの道端もよくはき掃除をしてくれる。
おかげで綺麗になりありがたい。
申し訳ないと思いつつも甘んじているこの頃である。

先月号に京都宇治にある平等院鳳凰堂のことを少し書いた。
平等院には国宝の鳳凰堂の近くに宝物館ミュージアム鳳翔館という建物が併設している。
鳳翔館は栗生明の設計で2001年の開館である。
生い茂る樹々で緑の多い境内であろうが、異種の用途で異なるざわめきもあることだろう。
大半が地下にある建築で地階からのアプローチになり、出口がグランドラインとなる。
まだ鳳翔館に訪れていないが古建築と洗練されたモダンな鳳翔館との狭間にはどんな空気が流れているのか。
そして鳳翔館に導かれたエントランスに立ったとき、そこから見える風景からは何が見えのだろうか。

 

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京都国立博物館の02年頃の入館口の風景

 

新館の建替えをしていた京都国立博物館も昨年開館した。
12年程前から七条通りの南門にある入館口とカフェそしてミュージアムショップと順次整備が行なわれていた。
設計は谷口吉生
丸亀の猪熊源一郎美術館豊田市美術館東京国立博物館法隆寺宝物館、ニューヨークのMOMA、東京倶楽部などを始めとし数々の美しい建築を創り出している。
極められたディテールからは見るものの意識も高まる。
平成知新館と名づけられた新館はオープンなエントランスから見渡せる石とガラスのスタティックな箱が、ニュートラルな水面や芝生と戯れる建築に見える。
建替え前と同じゾーンに設けられたこの新館の右手には本館が見え、今は使われていない大和大路通りの正門の正面に噴水のある前庭を配置した本館への空間とクロスするように設けられた新館のアプローチがある。
吹き抜ける風は何を伝えようとしているのか。
写真はミュージアムショップの出来る前だが、長期に渡り少しづつ移りゆく風景は自然に受け止められてきたのだろうか。
近いうちに見ておきたいと思っている。

私の視点
建築の評価や批評は論ずる側によりさまざまである。
当然論ずる視点の位地だけでなく見る角度方向が異なる。
私も建築のみならず、すべからくなるべく良いところを論じようと思ってきた。
といいつつも如何にやんちゃな爺さんとなりまたうっとおしい爺さんとなるかということも必要である。
でなければ、良いところは論ぜ得ないとも考える。
本来の難しい批評は専門とする評論家に任せ、私はと言うと良いところをやんちゃ爺的視点から見つめていくのがいいのではないかと考える。

風景は風の景色でもある。
そよ風、舞い風、薫風、清風、緑風、葉風、花風、真南風、白南風、晨風、凱風。
その限りない空気や匂いを感じ取れる体感を研ぎ澄まし風を感じる。
思ってもみない空間に導かれることもある。
日頃から肌で感じる想いの彼方を見つめ心がけながら過ごすことは必要なことだ。

そんなことを思いながら、自身の事物はさておきいろいろと覗き込みそして批評し戯れてみようと思う。
少なからずとも建築を学んできたことが視点を面白くしてくれていると思っている。
些細な楽しみでもある。

 

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ウォーターハンマー防止器

 

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ホトトギスの種子

 

家の修理が一段落してからもう随分と経つ。
洗濯機の給水口につけたウォーターハンマー防止器は、少し様子を見るつもりでつけてみたが、甲斐も有り衝撃音はましになった。
止水栓型の防止器は、よく有る三角の星形の握りから形もシンプルで見た目も良くなりなかなかよろしいと言った感じとなった。
庭の草木たちも平常に戻ってきた。
ホトトギスも種子が出来ている。
カニシャボのまんまるの蕾は少しづつ細長くふっくらとしてきた。
クリスマスローズの蕾も育ってきた。
寒さはこれから峠を迎えるが、草々たちは伸びやかに育っている。

 

*****

 

Vol.108「endless thema - 103」(14年12月)

 

--------十二月/日々のくらし あれこれ

 

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食べごろになった干し柿

 

渋柿を枝ごといただいた。
観賞用もいいのだが、干し柿にすれば食べられると聞き早々に作ることにした。
皮を剥き、風通しの良い場所に吊るしてみた。
幸い、そこそこの天気がつづき、食べごろを見計らって頂いた。
それでも十日程干しただろうか。
お天道様のありがたみか、まだ冬浅し日々だが旨味もあり甘くおいしい干し柿ができた。

 

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CGによる光背と天涯

 

山装う季節もそろそろ終わる。
先月号に書いたTVで放映されているビールのCFも、富貴寺大堂から平等院鳳凰堂のバージョンに衣替えのようだ。
国宝の平等院鳳凰堂は裳屋根のある中堂を中心に左右の翼廊と尾廊で構成されている。
中堂の軒は二軒で飛檐垂木は角だが地垂木は円形で古い時代を継承している。
隅木と木負の取り合いから最初の地垂木までが少し詰まっているが、垂木の丸みがそれを軽減しているように見え違和感はない。
軒の支割は垂木巾と間隔の同じ繁垂木で、丸桁も反りが付けられているようだ。
軒先側の支割の間隔を変え反りあがっていく軒は平安の緩やかな屋根と伸びやかなつくりである。
立体的な屋根の構成は幾つもの形が多用使され、型に嵌らず興味深い。
平等院鳳凰堂 よみがえる平安の色彩美/2002年5月25日 神居文彰著」には極彩色に彩色された空間に金色の阿弥陀如来像と天蓋や壁面の雲中供養菩薩がコンピューターグラフィックで描かれ再現されている。
極彩色の修復も一段落したと聞く。
きらびやかな空間は長く後世に引き継がれて行くことと思う。

 

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chocolat」のケーキとシュー

 

夕方、用を済ませた帰りに妻と円町の「chocolat」に寄ってみた。
バックナンバーの2010年09月号でご紹介した写真家の辰巳さんのお店である。
おいしそうなチョコレートタルトやムースがあり、ちょっとおしゃべりしてテイクアウトした。
どれもこれもおいしいが、特にタルトは少し苦みのあるチョコでコーティングされ大人の味がいい。
カカオの香りとカカオポリフェノールでリフレッシュ。

NHK Eテレの2355は細野晴臣のオープニングソングから始まる。
日付けが変わる前の五分程の番組だが、なかなかおもしろい。
金曜日にある夜更かしワークショップというコーナーで、
「使いかけのセロハンテープと半径が1センチ大きいセロハンテープの円周の差は実測して約6.2センチ。では地球の円周とその1センチ外側にある円周との差はどのくらいだろう。」
というのをやっていた。
実際には円周率の二倍で、約6.28センチ。
直感的に想像すると何キロぐらいだろうとふと思ってしまったりもするが、小さい円の大きさがどんなに巨大になろうと1センチ外側の円周との差は約6.28センチと常に一定である。

コーナーは「日めくりアニメ」「わたし犬いぬ/わたしねこ」「海外では通じない和製英語」「1minute gallery」「おやすみソング」「今日のトピー」などなど。
いろいろなところで“なるほど”と思わせてくれる。
おやすみソングのひとつ「重箱の隅つつくの助」などまさしくそれで、心痛くもあり楽しくもある。
やさしいメロディラインと歌声の「おやすみソング」は、一日の終のほっと一息といったところだろうか。
早朝にも、同じく0655という番組があり少し趣向をかえてある。
どちらも五分という短い番組にもかかわらずなかなかの情報量と気持もゆるむ楽しさがある。

 

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ジュズサンゴ

 

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ワビスケ

 

夏ころから花が咲き始めたジュズサンゴ。
熟した実は艶のある赤橙色になった。
今は実だけとなったが、花が咲きながら実も熟していく不思議な生態。
寒さも増し葉もうっすらと赤くなっている。
庭の白ワビスケは薄紙をはぐように咲き始めた。
足元には落ち葉にまじりヒヨドリがついばみ散らかったモチノキの実も見える。
空気が澄み朝夕の寒さが身にしむ頃に咲く白ワビスケ
もうじき2015年が始まる。

 

*****

 

Vol.107「endless thema - 102」(14年11月)

 

--------十一月立冬/風景

 

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ヒヨドリがモチノキの実をついばみにきている

 

澄んだ空を着飾る雲が秋らしく思える。
野草を覆う冷たい朝露を見るようになってまだ間もない。
夜半の冷え込みを思うと不思議な日々がつづいていたように思う。
窓から見えるモチノキの実が思いのほかたくさん熟してきた。
赤い実をついばみにやってきたヒヨドリが甲高い声で鳴いている。
完熟の実は丸呑みするようだが、熟しきれていない実はくちばしで摘んで食べずに口から放し、その実は地面に転がっていく。
モチノキの樹形は越してきたときから相変わらずだが、和の風情で我が家にはよく似合っている。
しかし、その巧みな樹形は気になる。
伸びた新芽を適当に切りそろえてみたが、思いなしか作られた感じが強い。
微かな風を見られるような風景になるといいのだが。

 

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国宝の富貴大堂/大正六年の写真

 

TVのビールのCFで国宝の富貴寺大堂が映し出されていた。
富貴寺大堂は平安末期の国宝で穏やかで伸びのある軒が美しいお堂である。
少し専門的な語彙用語が多くなり恐縮ではあるが、柱間は正面三間側面四間、屋根は宝形造に露盤宝珠が載る小さなお堂である。
屋根の丸瓦の重なり合う行基葺は古い時代を想わせる。
側面と背面の壁面には、柱と柱の間に厚板が差し込まれている。
柱上部に設けられた舟肘木や長押との構成はシンプルだが頑強な造りをしている。
小さなお堂で少し骨太ではあるが、部材に設けられた大きめの面取りや木割の工夫がなされ、桁には反りもありしっかりした造りのなかにもさりげなさを感じる。
話ついでに、丸瓦の行基葺は元興寺極楽坊本堂・禅室を思い浮かべる。
極楽坊禅室はゆったりとした大きな切妻の屋根面をみせる。
その妻側には箕甲の変わりに、螻羽瓦(けらばかわら)に平瓦を裏返して二枚重ねる平式破風瓦型式※が使われている。
このケラバの葺き方が極楽坊禅室をすっきりと美しく見せているように思える。

現在の富貴寺大堂の行基葺や軒瓦は、発掘により出土した瓦から復元されている。
化粧軒裏の木負と隅木の納まり部分には論治垂木が設けられ、文献には垂木割から柱間などが決定されているように書かれている。
正面三間の柱間の中央と隅の柱間の支割の割りを変えるなど、支割の割付けの工夫やしっかりした木割が美しい軒を創っているのだろう。
論治垂木がないと木負の隅木から最初の地垂木までが詰まり気味となる。
とはいうものの醍醐寺五重塔中尊寺金色堂などは論治芯ではなく少しずれた位置に地垂木が割り付けられているが、事に縛られず伸びやかに創られている。

【参考文献】
日本建築史圖録 /星野書店 昭和八年 天沼俊一 著
日本建築史基礎資料集成 五 仏堂Ⅱ/平成十八年 中央公論美術出版
重要文化財 東福寺六波羅門並びに東司修理工事報告書/京都府教委員会‥‥※


古建築は垂木の大きさと形状や支割、茅負や木負、軒反り、軒の出、二軒の地垂木と飛檐垂木の比率、その高さ、瓦の納まり、屋根勾配、屋根の形状や勾配、建物間口や奥行き、柱間や柱径、組み物とその形状、・・・・・、これら建物を構成する全ての要因が複雑に影響し合うことによって「美しい」は成し遂げられる。
屋根から見え始める景観は、軒線が見え近づくにつれ部分を把握認識する。
景観をどう読むか、そしてそれはどんな風景なのか。
その為に美しい屋根や軒は重要なテーマとなる。

 

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ホトトギス

 

うすら明るい夕刻にアールグレーでも煎れようかと思い、近くのさざなみベーカリーまでアップルシナモンを買いに行った。
今月七日は立冬。暖かいものがうれしい。
裏庭ではホトトギスが咲いている。葉の食い散らかしの痕跡もない。
今年は家の修理のざわめきからかルリタテハもやってこなかったようだ。
その分ホトトギスはよく咲いた。毎年立冬の頃には木枯らし一号の声を聞く。
今年は昨年に比べ八日も早く吹いた。なんだか短い秋となった。
もうじき冬支度、枯れ葉が舞う風景となる。

 

*****

 

Vol.106「endless thema - 101」(14年10月)

 

--------十月寒露/虎屋菓寮 part 2

 

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果実酒

 

いただきものの果実酒。
金柑酒とピンクグレープフルーツ酒をミックスしてあるのだそうだ。
ほんのりとした苦みが喉ごしに爽やかである。
ストレートでおいしさを味わう。

 

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生け垣から見えるモチノキ

 

やっと自宅の改修工事も終り、簾を吊るすと案外と町家らしく見えるものである。 長い簾はどうも私の性に合わない。
ということもあり短めのものを使っている。
どこにでもある市販の葦の簾であるがうちにはよく似合う。
ビール片手に、斜向いのお宅のベランダから撮影させて頂いたが、屋根面がよく見え軒の鎌軒瓦の下端の連続した曲線模様が小気味良い。
もう少し間口が長いと軒も美しく見えるのだろうが、いかんせんである。上から見下ろすと、門と生け垣そして下屋の屋根の具合もよく分かる。
意外と松もいい感じに見える。
工事で少し痛んだ松の枝だが容易に切るとヤニが落ちる。
真新しい瓦を汚すことにもなりかねないのでそのままにしてある。
モチノキには実がたくさん付いている。
少しづつだが日増しに色づき始めている。

 

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葛仕立ての水羊羹と抹茶

 

今日は少し暑さも残っているが過ごしやすい日となり、一条通りにある虎屋菓寮(内藤廣設計2009年/バックナンバー2014年1月号)を訪ねた。
訪れた時間帯が良かったのか、外の軒下の席があいておりお願いした。
妻は宇治金時のかき氷。私は葛仕立ての水羊羹と抹茶をいただいた。
水羊羹の上品な味わいは程よく口の中に残る。
極細な点てぐあいの抹茶は滑らかな舌触りでほどがいい。

 

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軒下からの風景

 

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水盤に景色が写り込んでいる

 

深い軒下の席の足先には水盤がつくられ、廻りの景色が映り込んでいる。
西側の建物沿いの植え込みには芙蓉の花が見える。
イメージを重ね合わせているのだろうか。
しとやかな風景である。

 

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天井

 

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柱廻りの詳細

 

深い軒を見上げてみると、化粧垂木の垂木間に組み合うように同じ断面を持つ材が外から内へとつづき、緩やかにカーブを描いている。
材と材の間はスケルトンとなっており天井中央のルーフガラスから穏やかな明かりが障りこむ。
七尺五寸程の間隔で立っている柱は十字形の鉄骨で化粧垂木を貫通している。
内と外を仕切るガラス窓はこの柱から少し外側に独立して設けられ、空間をかろやかにしているだけでなく内と外の隔たりを軽減している。
天井からは虎屋の紋章のモチーフを用いたと思われるコードペンダントが低い位置に吊るされ、柔らかな天井面を隠すことなく設けられている。

 

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路地

 

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路地

 

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路地に設けられたブラケット

 

敷地の廻りに巡らされたどこからでもアプローチできる狭くて楽しい路地は、敷地の外のざわめきを融和しているようだ。
曲がりくねり時たま雁行した外空間から、開放的な庭や菓寮の内空間との繋がりは自然で心和む。
この路地にも紋章を取り入れたと思われるブラケットや植え込み灯が付けられている。 それほど長居はしていないが、穏やかな空気と居心地の良さを引きづりつつ菓寮を後にした。

 

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ギンミズヒキ

 

家の玄関先では鉢植えのギンミズヒキの花が迎えてくれる。
ミズヒキソウの白花である。
花と言うが花に見えるのは顎片である。
朝開いていると思っていると午後を過ぎるころには花は閉じてしまう。
言われなければ分からない程のミズヒキソウの花だが、こちらもしとやかでいい。

夕刻の木陰に入ると肌寒さを覚える程になった。
十月八日は寒露。もう秋の始まりである。
家の中の片付けも少し残ったままだ。
気合いを入れてするのも良いが息切れしないようぼちぼちやりながら調えようと思っている。

 

*****

 

Vol.105「endless thema - 100」(14年09月)

 

--------九月/鎌軒瓦と熨斗止

 

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大府の巨峰

 

今年も半田に住む友人からうれしい便りが届いた。
大府の露地物巨峰は八月中旬から二十五日頃までが最盛期。
ぶどう園は大府市のエコファーム。
知多半島の温暖な気候からか少し早めの収穫のようだ。
季節を想いながら皮ごと頬張る。
甘みとほんのりとした酸味が喉を潤してくれる。

数年程前から、屋根瓦や焼杉板の傷みが際立ってきていた。
越してきて二十年程経ち、焼杉板の修理に加えて気になっていた畳や襖その他諸々の修理もこの夏に行なった。

屋根瓦は越してきた時にはすでに随分と傷んでいたものの、痛みの激しい瓦の差し替えと調整で済ましてきた。
まだしばらくはと思うものの、とりあえずは痛みの激しい下屋の葺き替えと門の屋根の修理と考えていた。
下見に何度も足を運んでもらった瓦屋さんに意見を聞きながら方策を練ったが、「上からするのが筋」と言う瓦屋さんの大将に背中を押され、いつでも造り替えることの出来る門は調整だけにして主家の瓦の葺き替えを優先することにした。

 

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土を降ろした後に敷き詰められた杉皮がみえる

 

既存の屋根は土葺きでトントンと呼ばれる割板の上に杉皮が敷き詰められその上に土葺の瓦がのっていた。
瓦は日本瓦の桟瓦で軒先には万十軒瓦に大棟は五段熨斗に紐丸瓦がのり、下屋の隅棟は三段熨斗に紐丸瓦といったどこにでもある普請である。
腰葺きのある東側の軒先にも万十軒瓦が使われていた。

 

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軒の鎌軒瓦と隅棟の熨斗止

 

せっかく葺き変えることでもあるし、自分なりに少しだけかっこ良くしてみた。
面戸などには黒漆喰を使い、大屋根の鬼瓦にはシンプルで癖のないカエズ型。
大棟五段熨斗にひもなしの素丸瓦をつかい、軒先は鎌軒瓦の文様のない瓦を選んだ。 下屋の軒先にも鎌軒瓦、そして門越しに少しだけ見える隅棟にも三段熨斗に素丸瓦を選び、鬼瓦を使う替わりに熨斗止という納まりを選んだ。
東側の腰葺きの軒先には、言うまでもなく一文字瓦で納めている。
瓦職人の腕の見せ所といった造りとなりうれしい悲鳴であったと思うが、甲斐ありなかなか美しく仕上がっている。

焼杉板張のある妻側はお隣さんと屋根が重なり合っていた時の形状そのままに、建築を業とする者には解るであろう歴史をそのまま残してある。
外玄関の雨避けにつけているトップライトと門のデザイン、そして窓廻りは近い将来の楽しみな宿題とすることにした。

 

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襖の竪縁に付けた極小引手

 

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中と小のオリジナルの引手のサンプル

 

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天袋の襖に荒磯の唐紙

 

玄関の二畳の間の押入の襖の引手には丸や角の引手の替わりに、扉や戸棚の木製建具に使うオリジナルの引手棒を極小タイプにしてつけてみた。
使い心地を知る為にも使ってみたが、襖に使うのも悪くない。
それにシンプルでなかなかいい。
材質はピーラーで手あか防止に蜜蝋WAXを塗ったが、日に焼けるのを見計らって塗り重ねると美しくなる。
二階和室の床の間の天袋の襖紙は手持ちの荒磯文様の唐紙を使い張り替えた。
黒漆の縁と引手は古い時代からのものを残してある。
庭に面した大きく重いガラス戸の建具が指一本で軽く動くようになったのも建具職人の技だろう。
玄関を始めとして建具はストレスなく軽く動くようになった。

 

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空間を繋ぐ吹き抜け

 

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イペは濡れてもすぐに乾いてくる

 

板と板の間にツインカーボという中空のアクリル板を置いただけの吹き抜けは、柔らかな光で1階と2階を繋ぐ。
ツインカーボからの視線の先の空間を感じる。
直接的に見えること自体ではなく意識させることで広さを認識する。
吹き抜けのある真新しいブラインドの架かる窓から見える庭には、ステンレス製のフレームに変えた植木棚がある。
棚板には板厚30mmのイペという木材を載せてある。
白色がかっていた棚板はすこしづつ茶褐色に赤みが差し、いい感じになりつつある。
少し時間を置いて、ある程度木材の焼けるのを待ち鉢を置くことにした。
イペは保護塗料の塗布などの必要もなく、耐腐朽効果のある成分が含まれているため水かかりの部分にはいい。

ともあれ、今回行なったその他の諸々の修理も含めて調整などの工事を残すものの無事終了し、うるさいクライアント(私)と暑い最中の工事ということもあり、引き受けていただいた熊倉工務店さんはもとより瓦屋さんを始め協力業者さんには、ねぎらいの気持と感謝である。

 

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ジュズサンゴの花房

 

庭では木陰に置いた鉢植えのジュズサンゴの花が咲いている。
少し遅咲きのようだが、小さな花の房が涼風にそよいでいる。
季節は白露そして秋分へとつづく。
秋分の九月二十三日には雷乃収声。
「かみなりすなわちこえをおさむ」と読む。
積乱雲の発生も少なくなり雷の声もしなくなるという季節になる。

 

*****

 

Vol.104「endless thema - 99」(14年08月)

 

--------八月/日々のくらし serial thema

 

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サクランボの軸結び;口の中で結んでみました

 

国産もののサクランボは七月下旬には収穫も終えるようだ。
これが今年最後のサクランボかと想いながら軸を口の中で結んでみる。
どこがどうなっているのかイメージしながら結ぶ。
意外と空間的遊戯かなと至福のときを遊び楽しだ。

 

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じーじーじーと鳴くのはアブラゼミ

 

去年の今頃は、庭先でアブラゼミに混じってクマゼミのミンミンミンと鳴く声が聞こえていた。
今朝はアブラゼミばかりかじーじーじーとモチノキでうるさい程の声で鳴いている。 暑さも際立つほどの夏の声だ。
暑いときには木綿ごし豆腐の冷や奴が旨い。
冷や奴などに添える鰹節はその都度削る。
以前に小型の削り器と一緒に鰹節もいただいた。
使う程に小さくなるのはあたりまえで、頂き物の鰹節は削ることが難しくなるほどとなってしまった。
前から出町商店街にあるふじや鰹節店に乾物を買いに寄るときに鰹節のことを店主にいろいろ聞いておいた。
早速、買い物がてら鰹節も一本買いに出た。

商店街と言うのは何かと面白いところで、寺町通りから河原町通りまでの出町商店街をぶらつく。
ふじやさんは寺町筋寄りにあるだろうか。
一応店主の分かり易い説明とうんちくを聞き、適当な大きさのものを買った。
鰹節もいろいろ有り、頭のところの凹みができるのが一本釣りの証らしい。
そして背と腹とある。
腹身に比べ脂も少ない背のほうがしっかりとした味なのだろうが、旨そうにみえた腹身にしてみた。

 

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ふじやさんの店先に並ぶ鰹節

 

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使い始めの鰹節と削れなくなった鰹節

 

削り方は、関東と関西では違う。
実家のある名古屋では関東圏仕様で、子供の頃に手伝いで外に向かって押しながら削っていた記憶がある。
ふじやさんの店主の話では関西圏の京都では手前に向かって削るようだ。
私なりに一応はどちらも試してみた。
理屈は不明だが手前にひくと少しまろやかな感じというか、口当たりがよかったこともあり、今は関西風の手前にひく削り方をしている。
普通は鰹節の表面についたカビを取り省く磨きをして削るものらしいが、そのまま削って食しても問題はない。
味的には多少の違いが有るように聞いたが、細かいことは気にせずそのまま削っている。

鰹節を最初に削る場所と向きは、ふじやさんの店主が袋に書いてくれる。
それに保存用のビニール袋を頂いたり、保存方法など分かり易く教えてもらえてありがたい。
小さくなって削れなくなったものはまとめてふじやさんに持っていくと削ってもらえる。
鰹節は削りたての薫りがいい。
シャカシャカシャカシャカと削りながら鰹節のほのかな薫りを楽しんでいる。

 

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窓ガラスに止まるイラガ

 

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セマダラコガネ

 

朝、ブラインドを開けると窓ガラスに停まっているイラガを見つけた。
黒い裏地のマントを羽織っているかのように見える。
幼虫にでも刺されたらやっかいなことになる。
聞く所によると幼虫の天敵はカマキリらしい。
しばらくご無沙汰のカマキリーノ君。遊びにきてくれるといいのだが。
家の中では、ちいちゃなセマダラコガネだろうか、お散歩にやって来た。
これからどこかへお出かけなのか、暑い最中畳の上を元気に移動中である。

今年も早、立秋を迎えようとしている。
万灯会が営まれ、中旬から下旬にかけ季節は綿柎開(わたのはなしべひらく)そして天地始粛(てんちはじめてさむし)とつづく。
綿の花が咲き実ができ、はじけ白い綿が覗く頃には、ふと涼しい風を感じるころとなる。

 

*****

 

Vol.103「endless thema - 98」(14年07月)

 

--------七月真南風/調う

 

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白いイワタバコ

 

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青紫のイワタバコ

 

妻の実家からイワタバコを頂いてきた。
ひと鉢は白、もうひと鉢は青紫。
谷川の岩場などに生息する山草で、直接日の当らないじめっとした日陰を好む。
庭は剪定したてで生け垣も小さっぱりとなり、風通しもいいし陽当たりもいい。
当然木陰もない。突然の環境の変化か、花は開いたものの少し元気がない。
庭を見渡したがいい場所がなかなか見当たらない。
しばらくは窪んだ場所において様子をみることにした。
鮮やかな青紫のイワタバコの花姿はなかなか綺麗だ。
花景によく似合っている。

 

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クーネル

 

今日は日差しも穏やか、窓から入る風に一息つきながら机の上に置いてあったku:nel 68号の特集「料理上手の台所」をぱらぱらと捲っていた。
掲載されている写真に映っている光景からはシンプルな暮らしが想像できる。
必要なものは置かれているがどこも美しく整っているように見える。
そしてそれらはそれぞれの居場所に大切に納まり、使い込まれたもの達への愛着も感じられる。
磨きあげられ整理され時間とともにオンリーワンへと変わっていくのだろう。

今時のキッチン事情は、家具のような流し台、ものを置かないLivingのような台所といったところだろうか。
しかし建築空間には家具調度品の他に存在する様々な物品が点在する。
それも含めてどれだけ生活感をイメージすることが出来るかということが必要である。
特別に住空間だけを取り上げての話しではない。
物を置いても美しい空間、というよりは空間は物を置きながら完成していく。
そして使い込む程に成果も出る。
美しいというよりは素直に調うという言葉が的確だろうか。
台所には調理道具のたぐいや調味料など必要なものはわんさと有る。
素直に置かれ素直に掛けられ、自然と調う。

ku:nel のページを追いながら、新しい古い広い狭いといったことはさほど重要なことではないということのように思える。
やはり、キッチン廻りでの心使いは吸排気や換気そして温湿度の調整といったことをさりげなくコントロールできる空間かどうかといったことだろうか。
NHK土曜ドラマ「55歳からのハローライフ」という村上龍原作のドラマの中では、映像の美しさと生活感ある自然な住空間の表現には暮らしの上質な感じが表現されていた。
映像とともにバッハのカンタータBWV147が静かに流れ、いろいろなしつらえが調いよどみのない住まいのイメージが創り出されていた。
心のどこかに引き出しがまたひとつ生まれた気がする。

 

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壁際にスリットが見える

 

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エアコンの吹き出し

 

少し前に新幹線のぞみに乗った。
カモノハシと言われる700系には、車両編成にも依るらしいがJR700のロゴが入っている。
700系の乗客席の窓際の上部にはスリットがある。
あまりこういうところをじっと見たことはなかったが、視線の先に目に止まるものが見えた。
手を翳してみると、風がそよいでいるのが分かる。
エアコンの小さな吹き出し口で、なかなか丁寧な作りで巧く出来ている。
このスポット的な小さな吹き出し口からは、さらっとした空気が流れ気持がいい。
空間全体は省エネで、仕事場や居間 ダイニング サニタリーとスポット的に本機からワイヤレスで飛ばせるこんな超小型ルーバーがあれば快適に過ごせることが出来そうだ。
その日は、何気なく面白いものを発見したかのようで少しうれしい気分であった。

 

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久しぶりに聴いたブレッド&バターのアルバム

 

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カノコガ

 

梅雨が明けるころに吹く風は、白南風(しろはえ)と呼ばれる。
沖縄地方ではこの季節風を真南風(まはえ)という。
1975年リリースのブレッド&バターのアルバムに「マハエ」という曲があったのを思い出し廻してみた。
「マハエ」はスキャットの曲でなかなかおもしろい。
原稿を書いていると、連鎖的に古い記憶の断片も繋がってくる。
つい、B&Bの他のアルバムに聴き入ってしまった。
朝、窓ガラスに止まっていたカノコガを見つけた。
ハンコチョウとも呼ばれている。
蛾なのに昼間に動き回るちょっと変わった暮らし振り。
初夏から夏にかけたこの時季に蜜を吸いに飛んでいる。

 

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