人と自然と建築と

nonobe's diaryーArchitect Message

Vol.13「endless thema - 9」(07年1月)

-------建築家シリーズ?

 

「建築家シリーズ」に書こうと、この秋この目で見て来たばかりの建物がある。
簡単にと思ったのだが到底無理だと判り本編にてご紹介することにした。

 

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●大玄関:表門を入り稲穂垣という少し透けて見える垣根を左に行くと右手に見えてくる。

 


その敷地は、高野川と賀茂川の合流地点から少し下がった鴨川のほとりにあり、
敷地の軸線はまっすぐ東山の大文字に向っている。
1944年に建てられた茶室のある茶苑に
1963年に増築された住居部分が対比的に建っている。
と、ここまで書けばお分かりになる方もさぞかし多いだろうと思いますが。
そう、増築部は建築家吉田五十八の作品である。
そして、茶室を含む一連の数寄屋建築は、京都の名工北村捨次郎の作である。
大文字の正面に位置する茶苑に増築されたこの住居は、
吉田五十八 69歳の作品である。
玄関部分は、北村捨次郎作の寄付から四帖の間、
立札席とのつながりを考慮した計画がなされている。
立札席は付書院のある床tokoのついた和洋折衷のデザインで
床yukaの仕上げはパーケットフローリング、
床tokoの飾り棚は紐が巻かれた金属棒で吊られ、
天井は杉の目透かしに銀色に塗られた目地が入れられている。
モダンな造りである。そして、土間に降りる敷居には石がつかわれている。

 

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●左:立札席の天井。目地は銀色に塗られている。
 右:渡り廊下に、木立から木漏れ日が差し込んでいる。
   肩の力が抜けるここちよさである。

 


立札席から土間にでて渡り廊下を行くと待ち合いがあり、
ちょうどこの待ち合いと茶席の間からは吉田五十八設計の
Livingの室内をかいま見る事ができる。
大きくL字型に開け放された窓を通して陽射しの当った奥の壁まで視線が行く。
茶席の玄関に足を踏み入れると、茶席に向う心を後押ししてくれるかのように、
池に迫り出した縁がある小間は孤蓬庵の忘筌を小粋にしたような感がある。
この奥にある茶席は、丁度招客の位置から庭を通し賀茂川から東山の大文字が
見渡せる広間となっている。写真は広間廻りの襖の引き手である。
広間と次の間の境の四枚引違の襖にはいろいろな意匠の引手が使われ、
恐らく骨董を用いたと思われ、見る目を肥やしてくれる。
下中央の写真はすだれ吊りの金物であるがよく出来ている。
随所に粋なつくりがほどこされたこの建物には、
客を迎え入れる心が生き生きとした表現でつくられていて、
緊張感のなかにやすらぎを見る思いである。

 

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●4点とも襖の引き手。

 

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●左:小間の前にある廊下。忘筌を思わす。
 中:簾掛けの金物
 右:左の廊下をまがったところにある地窓の竪子だけの障子。

 


北側の住居部分は伝統的な数寄屋建築とは表現のしかたが違う
吉田五十八の近代和風と言われる作風だがまた思いは同じであろう。
二間続きの広間のある和室には、吉田五十八好みと言われる作風の幾つかが見られる。
天井に掘込まれた溝(右から二番目の写真)をつたう荒い組子の水越障子、
その溝である底目地と組み込まれた照明器具のカバーの納り、
天井いっぱいありながら上部の開いた襖はそれの当たる柱が
回転し(下左の写真)壁のなかに納りきる、
納りきった状態は天井に目地しかないために二室は
十五帖(八帖と変型の七帖)一部屋に見える。
壁とその見切材が角でテクスチャーが変わる八掛納り、
畳からフラットにつながる縁側の床板は目地無しの突き合わせの納りであり、
とても40年も前の時代のたてものとは思えないほど斬新である。

 

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● Kawaramachi-imadgawa kamigyou Kyoto
  1963 by ISOYA YOSHIDA
  photo:TEAM87

 

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そしてこの八帖の広間につながるLIVINGのプロポーション
すばらしさは一体何なんだろうとさえ感じる。
高い天井とそしてL字型に開口する建具はすべて解放され、
内にいることさえ忘れてしまうかのような錯角を覚えるのである。
また最後になったが、既存の取次ぎと取り合う大玄関も
吉田五十八好みの造りが随所にみられ、
腰付き障子と雨戸がこれもまた袖壁に納り切るように出来ている。
写真下右は戸が納ったところである。なんとも美しい造りである。
北村捨次郎と吉田五十八、なぜか先に出来た捨次郎の立札席に
接点が見い出されるのではないだろうか。

 

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●左:玄関の天井。竹のなぐり仕上げになっている。
 右:玄関の雨戸と腰板付きの障子が引き込まれた状態
  1963 by ISOYA YOSHIDA



 

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