人と自然と建築と

nonobe's diaryーArchitect Message

endless thema -160------ 2023年初月 / 兎毛通

 

2023年初月を迎え、季節はもう款冬華(ふきのはなさく)。25日には、流れる沢の水も凍るほどの寒き風景を想う水沢腹堅(さわみずこおりつめる)になる。裏庭の鉢植えのクリスマスローズの蕾が少し大きくなっている。地植えの沈丁花も蕾がついた。馥郁となる頃には、もう少し時間はあるが楽しみである。

 

毎年の賀状や寒中見舞はその年の干支に因んだ古建築部位の語彙を紹介している。今年は「 兎 」で「 兎毛通/うのけどおし 」。ひと回り前の賀状と同じ語彙で少し恐縮である。

 

 

 

 

兎毛通とは唐破風の破風板の中央下部に付けられた唐破風懸魚で、切妻の破風に取り付けられているような懸魚を平たくした形をしている。

写真は順に、京都仁和寺皇族門の唐破風、名古屋城本丸御殿の車寄、名古屋堀川五条橋袂の屋根神様の御社。

 

仁和寺の皇族門は、御殿南庭の南側にある平入の門。檜皮葺の四脚平唐門で、丸い本柱に四角の控柱。唐破風の穏やかで美しい曲線と華奢で細やかな造りは優美な感じを受ける。

 

名古屋城本丸御殿の唐破風は、黒漆に金の縁取りに見事な装飾の金物が設けられている。曲線は力強く、取り付けられた金物には職人の技が光る。金の金物のひれがつく禹毛通も黒漆に金の縁取りが施してあり、絢爛さがほとばしる。

 

名古屋堀川五条橋袂の屋根神様の御社には、鳳凰の舞う姿のような彫刻が施された禹毛通が取り付けられている。江戸末期以降と思われるが、この頃には多種多様な彫刻が施された兎毛通が見られるようになる。本来は屋根の上に祀られていたと思うが、何かの理由で橋の袂に降りて来られたのだろう。どこか惹かれる御社の禹毛通である。

endless thema -159------ 2022年12月 冬迎迎/網戸の張替え

 

生垣のサザンカが咲き続けている。やわらかかに揺れる花びらは生垣も調う。

椿のワビスケは例年に比べ沢山の蕾をつけ、早くから咲き始めている。

 

開花は自然気候等に左右されるが、そのときの何かのスイッチがはいり咲き始める。

今月始めにかけての寒波従来。裏庭の八重の椿の蕾もふっくらとしてきた。

秋冷の爽やかさは薄れ蕭々となり、日向が恋しくなる。

 

 

暮れの慌ただしさを思い、気になっていた網戸の張替えは早くに済ませた。

網戸の張替えは簡単そうで意外と難しい。小さな網戸は割りと手早くできるが、

大きな網戸はシワや弛みがどこかにでてしまう。

 

網は、少し大きめにカットし出来るだけ縦横を揃えて、歪みがでないように

注意をしながら押縁を四方に押し込んで止めていく。

止め終わったら最後に、周りのはみ出た網をカッターなどでカットする。

 

毎回思うことだが、引っ張りすぎると網の歪みで元に戻ろうとして、

押縁が抜けてしまうこともある。カットした後に外れると、それはもう

どうしようもないことになる。

多少の弛みは網自体が元に戻ろうとするので、そのままでもいい時もあり、

さじ加減が難しい。

 

網の縦横が枠に平行になっていれば、案外と歪みは少なく結構上手くいくが、

この合わせるということが難しい。考察的には、「適度に均一に引っ張り、

タテヨコを出来るだけ正確に。」ということだろうか。

 

劣化の少ないステンレス網のような金属網は、専門の方にお願いしないと

難しいのだが、黒網のように透過性に優れ存在感のないようなもの、

反射性のあるものや外からは見えづらい方向性のあるものなど、網目の大きさ

なども含め樹脂性の網の種類は意外と多い。

場所や好みに合わせて使用するのが好ましい。

endless thema -158------ 2022年11月 秋深深 / フェノロジー

 

季節はゆきかい、カマツガの実は紅く染まり、シュウメイギクは蕾をつけ花を

咲かせた。

朝の窓に降り注ぐ光は穏やかになり、立冬を迎え小春日和がうれしい頃になった。

秋口には庭木の剪定も済み、松も生垣もすっきりした。穏やかな午後の日射しは、

庭の地表にも長く差し込むようになった。

 

 

 

石垣の隙間から伸びているギンミズヒキは陽が昇るのにつれ花が開き始める。

午後になると花は閉じ始め、また朝になると花は開き始める。

体の冬支度は寒冷順化、寒さに負けない体づくり。ホウチャクソウも黄色く

冬枯れを始めている。庭の風景も少しずつ冬に向かっている。

 

 

前回前々回と、生態系の北上の微妙なずれによる歪みが、どの程度の影響を

受けているのか気になると書いた矢先に、朝日新聞の「 気候変動が狂わす

命の営み 」と言う記事が掲載されているのを読んだ。

記事からは、このずれによる歪みを「 フェノロジカルミスマッチ 」と言い、

長期的な調査研究が必要とされるという。

近年の気候変動により、このずれの頻度が増加傾向にあり、生態系の共生関係

乱され始めているのだそうだ。

国連のフロンティア報告書でも、他種間の連鎖が噛み合わなくなってきている

警告をだしていると。

それは、昆虫と花の開花時期、その結実と鳥や動物、そして動物の冬眠時期、

鳥のヒナと幼虫の発生時期、魚とプランクトンの発生時期や農作物と昆虫の

関係などにも影響を及ぼすことになるという。

季節と生き物の関わりの変化をフェノロジー/生物季節 と呼び、気温や日照

の時間などから影響を受けることにより、生物はその変化に順応していく。

その度合いはそれぞれの種により違う為、いままでの関係を維持できなく

なっていく。如何に気候変動の幅を小さくするかが今後の課題となるようだ。

 

追談だが、三谷幸喜さんの連載「 ありふれた生活 」( 朝日新聞夕刊の毎木曜 )

に、以前に書いた内容と同じだと指摘されて調べたが、過去の別の発言などと

重なりあったことのようだと書かれていたのを思い出した。

仕事柄こういうご苦労は多いのだろう。

わたしのこのブログ「人と自然と建築と/endless thema 」は、バックナンバー

で書いたことのなかに繰り返し幾度もメッセージとしたいことが何偏かあり

必要に応じて繰り返し書き留めておこうとも考えている。

 

 

 

 

endless thema -157------ 2022年10月 / 秋の風

 

 

長く伸びた茎の先の花芽が、やっと大きくなってきた裏庭のホトトギス

玄関先で育つホトトギスのほうが先に咲いた。吹く風は爽やかになり、

通りを抜けていく風に揺れている。少しだけ、陽射しがうれしいとふと思う。

 

 

 

裏庭のヒヨドリバナは、霖の影響をうけ細い枝は垂れてしまったが散らずに

よく咲いている。花が終わると綿毛のような種子ができ、綿毛は風に煽られ

舞いあがり、秋の風景をつくる。

 

 

 

 

生態系の生息域の北上は、前回書いたセミだけでなく生態系全体に言えること

だろう。生息域の北上でこの辺りでも見られるようになったツマグロヒョウモン

数年程前から裏庭にも幾度となく舞い降りるようになった。多くは紋様から

メスのツマグロヒョウモンだ。

庭には幼虫が食べるスミレ系の葉も育つが、まだサナギは見たことはない。

巣立つまでの環境になるにはまだ少し時間がかかるのかも知れない。

植物も少しずつだが変化しているように思う。微妙なずれによる歪みが、

どの程度の影響を受けているのか気になるところである。

 

 

 

endless thema -156------ 2022年九月も終わり / 定期講習

 

 

夏の名残り。前庭やうら庭のあちこちには空蝉がとまっている。

板塀にしがみついた抜け殻はクマゼミのようだ。クマゼミの抜け殻は、少し

大きめで腹にはこぶがある。

この辺りでは7~8年程前からクマゼミの鳴き声がよく聞かれるようになった。

何処もかしこもだったジージーと鳴くアブラゼミは年ごとに減ってきている。

温暖化による生息域の北上なのだろうか。

 

 

 

まだまだ暑い頃に、建築士の定期講習を受講した。

一定規模の設計監理契約は管理建築士を置く建築士事務所登録が建築士法

定められている。そして建築士事務所に所属する建築士国交省令で定期講習

の受講が義務付けられる。

簡単に言えば、報酬を得て一定規模の設計をするには前述は不可欠になる。

私は管理建築士を兼ね事務所も存続しているので受講が義務付けられる。

一級の場合は、6時間以上の講習と修了考査がある。

 

近年は歳を重ねたせいか、講習が終わるともうヘトヘトである。

いつもと違うペースには心身の負担も大きい。

次回も、受講しようと思えるだろうか、と一抹の不安を感じながら、

汗ばんだ体と疲労による倦怠感を抱え帰路につくのである。

国交省 住宅局建築指導課編集の定期講習テキストの別冊も申し込み入手できた。

まとまりのある良い資料となる。

 

季節ごとのながあめは「霖」と書く。

夏から秋にかけては秋霖/しゅうりんと呼ぶ。

移りゆく季節のなか、流れゆく雲から深まる秋の気配を想う。

 

 

endless thema -155 ------ 2022年八月 夏も そろそろ / T定規

 

  

気が付く間もなく咲くセンリョウの花。重なり集う小さな花芽。注意深く観察ないと、実なのか花なのか分からない時がある。。暑さ始まるころは、葉と同じ色の蕾の先から白い花が顔を出していたが、今では秋支度なのか、少しづつ実になりつつある。

 

 

仕事場の棚脇の隙間には、大小のT定規が置いてある。学生のころの1055の大。建築士受験のときの600の小。殆どといっていい程使う機会はなくなった。

 

建築士の試験は、毎年暑い時期に行われている。私の時代の試験場はエアコンさえなかったが、近年はエアコンありの平行定規の使用が主流である。

 

棚脇から古い封筒も見つけた。もう随分と前のこと、一級建築士試験の監督員をしたことがある。委託書と実施要領には7月26日とある。その当時は、エアコンはすでに動いていた記憶がある。毎年この時期に行われる試験だが、試験中に倒れた受験生がでて以来、エアコンが導入されるようになったと聞いた事がある。

 

話は随分とズレたが、製図の試験はT定規から平行定規。そして、そのうちにパソコンでCADを使っての受験になるのかもしれない。

 

2本のT定規は、埃を払い布拭きした。

私にとってのT定規はエネルギーの源となるかどうかは分からないが、見えるところにでも置いておこうかと思っている。

endless thema -154------ 2022年八月夏 /広島平和公園

広島と長崎に原爆が投下されて今年で77年になる。バックナンバーで書いた原爆ドームや広島平和公園の事を、毎年この月には加筆修正し再稿する事にしようと思う。

 

写真は、2021年12月4日の朝日新聞の記事である。広島の原爆ドーム世界遺産に登録されている。ドーム内の写真には、耐震補強のための鉄骨部材が幾層にも設けられているのが見える。崩れ落ちたと思われる痕跡も確認できる。1945年8月6日、投下のあった日から77年の歳月が経った今、記憶に残しておかなければならない歴史である。(2021年12月 記)

 

広島平和公園は、建築家丹下健三氏の設計である。平和祈念式典はいつもTVで見る。生い茂る木立越しに原爆ドームが視線に入る映像からは、歳月を重ねて丹下氏の想いと共に祈念公園として成長し続けているように見える。

 

2015年の年初めに、「建築は知っている/ランドマークから見た戦後70年」という番組がNHKEテレで放映された。戦後の復興から高度成長そしてバブル期から現在に至までの建築を通して見た日本の風景。私もそれらのいくらかの時とともに建築を学んできた。番組はその時代の建築物から時代を検証し日本の記憶の戦後史を辿る。番組から東京タワーの鉄骨は物資の不足した時代、アメリカ軍の戦車をスクラップにした戦争という大過からできていると知った。まさに時は空間の中に記憶される。

 

番組中に登場する、東京都庁や代々木オリンピックアリーナの設計でも知られる丹下健三は1949年広島平和公園の競技設計に入選する。門をイメージする資料館のピロティをくぐり、慰霊碑のアーチから川を隔ててまっすぐに伸びた軸線の向こうには原爆ドームが視線にはいる。氏は「平和は自然からも神からも与えられたものでもなく、人々が実践的に創りだして行くものである。この広場の平和を祈念するための施設も、与えられた平和を観念的に祈念するためのものではなく平和を創り出すための工場でありたいと願う。」と述べている。

また「報道特集 鎮魂への条件~1969~」(1969年NHK放映)の氏のスピーチも編入され、「緑が育ち美しい祈念公園になってきたと思う。しかし一方悲惨でなまぐささの状況のなかで考えたことと大分とイメージが変わってきている。原爆の体験や経験が薄らいできているのではないかという心配がある気がする。平和と祈念する公園にし、さらに推進する為の起点にしようとする考えを持った時に大事だったことは、この記憶をどうゆう風に正確にふさわしく鮮烈に伝えていくかということであった。」とも述べている。

 

写真は広島平和公園の掲載された鹿島出版SD8704「特集 丹下健三 都市・建築設計研究所」である。建築家丹下健三の想いが果てることのない将来にわたり届きつづけて欲しい。(2015年2月 記)